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第62章 花見という名の宴会
「実はさ...」

また貴之が体を少し屈めて、小声で話し出す。

「千夏に言ったら怒られるから、言ってないんだけど」

家の中にまだいる千夏を警戒しているのか、そういう体勢になっているらしい。

「年明けたぐらいに、内山先輩やっと離婚が成立したらしくって」

「...そうなんですか」

3年も別居していて、なぜ離婚していないのか不思議に思ってはいた。
でも問いただすほどではなかったし、すっかり忘れていたぐらいなので、今更である。

くすくすと笑いながら続ける貴之に、それとなく頷くだけだ。

どうやら仕事の関係で、昇進に響いてはいけないからという元奥さんからの要望らしかった。
念願叶って、やっと希望するポストに付いた元奥さんがやっと離婚に応じてくれたらしい。

「だから、正式に離婚が成立してからスグぐらいに、俺のとこ電話あって。高崎さんに、もう一回会えないかって」

!!

貴之がにやりと人の悪い笑いをしている。

「でもその頃って、もう高崎さん、今の彼氏と付き合ってたでしょ?その事伝えたら、すっげーーー落ち込んでた」

...なんと相槌を打っていいかわからず、無言になってしまう。

「どんな相手なのかとか聞いてくるからさ、かなりのイケメンで年下の学生で超ラブラブらしいよって伝えたんだけど」

「え!」

おしゃべりな千夏のことだ。
貴之もきっと羚汰のことは何でも知っている筈だ。

恥ずかしくなってくる。

「確かに、彼、イケメンだね」

腕組みをして、「ふむ」といった風に羚汰を観察している。

そういう貴之も羚汰とは全くタイプが違うがカナリのイケメンだ。
すらりと伸びた手足と、サラサラとした黒髪。
少しつり目の目元が涼しげで、少し近寄り難い気もするぐらいだ。

しかし、ここまで話をする人だとは思わなかった。

以前にも何回か会って、いつだったかは一緒に飲んだこともあるが、どちらかというと寡黙な人かと思っていた。
それは、しゃべり続ける千夏の手前そう見えていただけなのかもしれない。

「そういえば、千夏は?」

まだ家から出てきていない。

「あーー、洗濯物取り込んでる、のかな」

「あの、えーっと、そろそろ車を...」

友達の旦那さんをアシに使うのは申し訳ないが、もうそろそろ本当に時間が無い。
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