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第69章 どたばた
「え、...その」

どこからどこまで話したらいいものか。

「なんで何も言わないの。...あんたまさか」

「違う。不倫じゃないし。母さんの嫌いなバツイチでもないから」

3年前のように大きな声を出そうとする母親を、つい睨んでしまう。

「だって」

「母さん、落ち着きなさい」

椅子に座ってからヨーグルトを黙々と食べていた父親が、スプーンを持つ手を止めて諌める。

「稜。ちゃんと説明しないと。父さんたちにはわからないぞ」

「...うん」

稜も食べることなくただ握りしめていたヨーグルトの器を置く。

そして、ゆっくりと羚汰について説明し始めた。


年下で、今26歳ということ。
留学を何年もしていて、大学も編入したりで、今K大学の4年生ということ。
有名なイタリアレストランでアルバイトをしていること。
千夏や由紀子にも会って、仲良くご飯を食べたこと。

時折、母親は何か言いたそうに口を開きかけていたが、その度に父親が制してくれた。

「...それで。彼は、父さんや母さんがもし会いたいというなら、挨拶に来るつもりがあるって」

「それは、結婚するつもりってこと?」

「母さん」

流石にそこは聞きたいらしい。
父親が止めるのもきかなかった。

「だって、挨拶に来るって。お父さん」

「...今すぐ結婚は無理だと思う。だけど、ゆくゆくでもそのつもりがなかったら、挨拶には来ないんじゃないかな」

稜もそこはまだ半信半疑だ。
でも千夏と有希子に会ったぐらいだ。
挨拶に来るというのは本気だろう。

「まだお付き合いはじめて間がないし。これからゆっくりお互い見極めて...」

本当はもう半年近くにもなる上に、同棲もしている。

でも同棲の事は、また今度にしよう。

ここまで言っただけで、手の中はぐっしょりだ。

母親は何も言い出せないようだ。
こんなとこは稜とよく似ている。

変わって口を開いたのは、父親だ。

「よくわかった。稜、ヨーグルト食べなさい。駅まで送ろう」

時刻はすっかり遅くなっていた。
終電とまではいかないが、いつも帰る電車はとっくに過ぎている。


駅まで、父の車で送ってもらった。
母親は何故だか呆然と家に残った。
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