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第71章 宿
「ふぅ」

羚汰がネクタイを緩めながら一息ついている。

「ごめんね。疲れたよね」

両親に挨拶するのに緊張した上、近所を歩き回って疲れないはずがない。

「やっぱり駅まで送って貰った方がよかったね」

「んなことないよ。ネクタイ慣れしてないだけ」

確かに、上手い具合に緩めることが出来ずに、まだぐにぐにと動かしている。

稜は手を伸ばして、手伝う。
ネクタイを緩めて、ワイシャツのボタンを1つ開けた。

いつもと違う羚汰の首元がとてつもなくセクシーで、それでいていつもの匂いも漂ってくる。

稜はその首元に抱きつきたい衝動をなんとか抑えながらも、そこから手を離すことが出来ずにいた。

「...ヤバいね」

自分の心の声が出てしまったかと思った次の瞬間、その言葉を発した羚汰に抱きしめられていた。

「はーぁ」

「...羚汰、ここ公園」

「だね」

子どもたちが遊んでいるタコの形をした遊具からは少し距離があるものの、人目がない訳では無い。
住宅街の中の公園ということもあって、ベンチの裏はすぐ道路で、車も行き交っている。

「ね。人がいるから」

「ずっとこうしたかったんだもん」

スーツ姿なのに、拗ねたような口ぶりで。
さっきまでのビシッとかっこよかった羚汰からの変わりぶりが激しい。

「なんで笑ってんの」

余計にその口調を強めて、羚汰が体を離す。
声に出さずに笑っていたのに、振動で伝わってしまったらしい。

「スーツ姿でもやっぱり中身はいつもの羚汰なんだなって」

「何それ」

眉間に軽くシワが入る。
バカにされたとでも思ったのだろうか。

「いい意味でよ。いい意味で。スーツ姿の羚汰もかっこいいけど、いつもの羚汰のが好き」

その言葉にふっと顔の力が抜けて、眉間のシワがなくなり、嬉しそうな顔になる。

羚汰の手が稜の顔にかかり、いつものように唇を撫でる。
顔も近づいてきていて、このままでは危ない。

「だ、だめだよ!」

「えー。何が?」

体を仰け反らしベンチの隅に逃げる稜を、くすくす笑いながらじりじりと追いかけてくる。

何か、何か話題を変えなくちゃ。

「よかったよね。同棲するの認めてくれて。もっと反対されると思ってたから」

父親が認めてくれて、母親も諦めたようだ。
普段から賑やかな母親ではあるが、父親のことはすごく立てている。

「だね」
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