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第71章 宿
羚汰が稜の肩におデコを押し当てるようにして、大きくため息をつく。

「...本当に勘弁して」

うなだれた羚汰がそう呟いて、稜はマズいことを口走ったのをやっと理解する。

でも、なにもデコピンしなくたって。

弾かれたおでこをさすっていると、羚汰が覗き込んでくる。

「痛かった?」

「痛いよ!」

「ごめん。...部屋に居たらヤバいからさ。まだ早いかもだけど、食堂に行こ?」

「...うん」

デコピンしたほうも、されたほうもシュンとして立ち上がり、部屋を後にする。


食堂は、テーブルが並ぶ洋式の部屋で。

仲居さんが2名、ばたばたと動き回って料理を並べていた。

声をかけると、決まった席に快く案内してくれた。

あまり豪華とはいえない料理の数々ー。
つまりは家庭的なメニューだったが、どれも色とりどりで美味しそうだ。

お昼に豪華な寿司やらデザートやらをたくさん食べていて、もう夜ご飯はいらないかな。
などと考えていたのに、美味しそうな料理を目の前にそんな考えはどこかへすっ飛んでいく。

ビールを注文し、乾杯した。



「すごい美味しかった!」

「だね。部屋見た時は、やべぇと思ったけど。料理は美味しかった」

旅館の晩ご飯だというのに、部屋食ではなく。
ましてや、畳の部屋でもない食堂で食べるというので、全く期待してなかった。

机に並んでいた料理で終わりかと思っていたら、次々と天ぷらやらお吸い物やらと暖かい料理が出てきた。

お部屋で冷たくなった料理を食べるより、このほうが出来立てを美味しい間にすぐ食べることが出来る。

美味しいお料理に、ビールも進み。
最後、次から次へと出てくるフルーツやアイスクリームに、おばあちゃん家にでも行ったような感覚になってくる。

ばたばたと動き回っていた仲居さんも、フルーツを出す頃には落ち着いて。
若いカップルが珍しいのか、稜たちに声をかけてきた。

確かに周りの人たちは、会社の研修かと思われるおっちゃんたちの集団と。
町内会か何かのお年寄りの集団と。
小規模の団体客がほとんどだ。

沢山あるテーブルや椅子は半分ほどしか埋まってないが、
仲居さん曰く、素泊まりのお客さんも多いらしい。



部屋に戻りながら、ほろ酔い上機嫌の羚汰がつないだ手を振り回す。

「戻ったらすぐお風呂行こうかー」
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