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監禁DAYS
第2章 今すぐ返して
食事が終わり、静かになった部屋を見渡す。
そこで違和感に気づき、耳を澄ませた。
やっぱりそうだ。
時計の音が一切しない。
男の手首を見るが、腕時計をつけていない。
今が朝なのか夕暮れなのかもわからない空を窓から見上げる。
「ねえ、私の携帯は?」
「渡すわけねえだろ」
「誰かから連絡来てるかも」
「よくそんなこと気にできるな」
男は椅子に座ったまま携帯を取り出すそぶりもない。
「ねえ」
「なんだ」
「名前は?」
「マイケル」
「だから、本名」
「お前さっきは信じてただろ」
「マイクじゃ似合わな過ぎるもの」
「なら鈴木一郎」
「一郎かあ。まだマシ」
そう言いながらも男を顔から徐々に足先へと観察する。
ラフな黒いシャツの間から見える浮き出た鎖骨に、細い脚、裾から見えるくるぶしは白く、筋肉質。
襟足のある黒髪は少し軽い印象を受けるが、あのセックスのやり方からしても遊んではないだろう。
「何をじろじろ見てる」
「とても誘拐とかやる人間には見えないなって」
「……その方がいいだろ」
「彼女は?」
「少し黙ってろ」
しゅんとした美月を男が一瞥する。
案外素直だ。
そう言おうとした瞬間、美月の口角が醜く上がった。
「ねえ」
顔を起こした美月が尋ねる。
「今、何か臭う?」
妙な日本語だと思った。
何が妙なのか、一瞬わからなくなるほどに。
美月は何度も場違いな質問を繰り出してきた。
だが、たった今の質問は今この場においてだけでなく、異常事態を除いて聞くことの無いものだった。
「なんだと」
にいっと、美月は更に笑みを広げた。
赤い唇が愉しそうに持ち上がる様は恐ろしくすらある。
「煙草でも吸ってみてよ」
「何を言ってる」
「いいから」
高圧的とは違う。
奇妙なものと遭遇すると、人は勝手にそれに畏敬の念を抱いて逆らえなくなるという。
今が、それだ。
男はゆっくりと胸元から煙草を取り出した。
丁度吸いたい気分でもあった。
人差し指と中指で一本を挟み、箱を机に置く。
美月の視線を感じながら、ライターを持ち上げ蓋を親指で開ける。
静かすぎる部屋の中で、シュボっと火が灯る音が響いた。
咥えた煙草に違和感を覚える。
一度口から外し、美月を見る。
どう?と訊いてくる瞳。
もう一度咥え、火を点ける。
ありえない。
臭いが、しない。