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監禁DAYS
第2章 今すぐ返して
「どういうことだ」
 頭を垂れた美月の肩が震える。
 押し殺すような笑いが鼓膜に届く。
 決して声を出さないようにするような嗤い。
「お前、何かしたのか」
 その言葉をスイッチに笑いが爆発する。
 ケタケタと部屋中に轟く勢いで。
 脚をばたつかせ、髪を乱しながら激しく笑い狂う。
 男は煙草を落として美月に詰め寄った。
 細い肩を力強く掴んで壁に押し付ける。
「何をした!?」
 美月は天井を見ながらふっと無表情になった。
 それからゆっくりと目線を下ろしてくる。
「私ね……セックス依存症ともう一つ、病気を持ってるの」
「なんだと……」
 見開かれた大きな目が揺れる。
「呪い、の方が正しいかな。セックスする度にね、相手の五感を一つずつ使えなくしちゃうの」
 信じられない言葉に男は耳を疑った。
「何の冗談だ」
「っていっても、器官を一つずつって感じらしくて眼は片目ずつ、耳も片耳ずつなんだけど。だから、全部なくなっちゃうのは七回かな?」
 淡々と話す美月にぞくりとする。
「信じられないって顔だね。ま、何回も見てきたけどその顔は。まずは大抵嗅覚なの。ホテルでヤった男がね、コーヒー淹れても香りがしないって言うのよ。失礼しちゃうでしょ」
「本気で言ってるのか」
「たぶん私が十歳になったときにママが悪魔にお願いしたのよ。純潔思想だったからさ、娘を犯す男にそういう制裁をって。で、皮肉な副作用がセックス依存症。十二時間イかないと死んじゃう。だから十歳の頃から毎朝毎晩自慰してきたの。玩具も一杯買ったし」
「ジーザス。とでも云えってか?」
「私だってどうせならもっといい超能力欲しかったわ」
「よく軽口叩けるな」
 笑い疲れたように美月は息を大きく吐いた。
「信じられないならもっかい試す? 身体の相性は合ってたと思うけど」
「ふざけんな」
「でも私を殺しちゃ依頼に支障が出るんでしょ? あと二時間くらいでまた発作が出てきちゃう。どうするの? い、ち、ろう?」
 男は私の肩から手を外し、立ち上がった。
「消えた五感はいつ戻るんだ?」
 笑い交じりに。
「確か……十日。十日後には戻るよ」
「長いな」
「長いの」
 口をつぐんだ男と美月が一分ほど互いの眼を見つめる。
 生唾を飲む音と、心音だけが聞こえる。
「ねえ」
「なんだ」
「トイレ行きたい」
 沈黙の後の言葉は、男を脱力させるに十分だった。
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