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監禁DAYS
第2章 今すぐ返して
また部屋に戻って床に横たわった美月がぼんやりと壁を眺める。
男は同時に依頼されている仕事をするため、パソコンに向かっていた。
―お姉ちゃん、今日は早く帰ってくるからね。敦くんと一緒に三人でご飯食べよ―
「……うん、待ってるねぇ」
男は一瞬声に振り向いたが、すぐに作業を再開する。
―そうだ、美香。帰りに前話してたビデオ借りてきてくれない? 三人で観ようよ―
―いいよ。大体八時くらいになるから、敦くんの車で出かける用意しといて―
「わかった。気を付けてね」
―子供じゃないんだから―
そういって、帰ってこなかったくせに。
あの後あんたの彼氏とどうなったか知らないでしょ。
壁の点々とした染みを辿りながら、あの日のことを思い出す。
―美月? 今美香どこにいるか知らない? 近所で通り魔が現れたって通報があったみたいなの。大丈夫?―
―まだ帰ってきてないけど。被害者って何人かいるの?―
―今病院に向かってる。あんた、ニュース見てなさいよ―
―え? 今テレビ点けてるけど……敦君? 通り魔事件ってニュースに出てる?―
「……敦君?」
そこで過去が途切れる。
いつも、思い出そうとしても本能が止める。
光るテレビの画面と、妹の彼氏の凍り付いた横顔。
そのあとすぐに、私はその彼氏と相対して怒りをぶつけあってたんだ。
でもあれは時間が違うはず。
あの間に、美香はどうなってたのかな。
ギシ、と後ろの床が軋む音に首を曲げる。
男が廊下に出ようとしていたが、美月が起きているのに気付いて立ち止まった。
「起きてたのか」
「うん。どっか行くの」
「行かねえよ」
そう言ってまた机に戻る。
苛々した横顔に、つい言葉が出てしまう。
「何か取りに行くものがあったら行けば? 私は逃げないよ」
「会った時から思ってたんだがな、お前何で逃げる気ないんだ? 実は帰りたくないのか?」
帰りたくない、か。
常に奇妙な回答をすぐに返してきた美月が数秒黙るので、男が怪訝そうに質問を重ねる。
「答えたくないのか」
「随分お喋りな誘拐犯さんだなあって」
「典型的な誘拐犯は物静かか?」
「マイ……じゃない。一郎は私の過去なんかに興味あるの?」
一部を知っているからな、腹の中で呟いて男は頷いた。
「別に。帰りたくないとかじゃないけど。死んでもどうでもいいかって」
「何だそれ」
「今どきの若者」