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第10章 挨拶

「季節外れなのに、よく手に入ったね。」

父の疑問に、母が答えた。

「偶然なのよ。去年の春、お花見に行った時に八重桜が余りにも綺麗だったからもらって、作ってあったの。塩漬けだから、一年は保つでしょ？まさか、こんな処で役にたつなんてね。」

母は、意味深な微笑みを浮かべ、父の顔を見た。

「あぁ〜…懐かしいね。
本当に…あれから随分、時が経ってしまった。」


懐かしい？

父にも、このお茶に何か思い入れでもあるのだろうか？

母の不可思議な微笑みも、何だか気になる。

湯呑みに口をつけ、飲んでみるとほんのりと塩味で桜の芳しい香りが鼻へ抜けていくようだった。



「うっ…ううっ…。」

父は、凍りついたように湯呑みの中を見つめたまま、突如、嗚咽を漏らしていた。

湯呑みをゆっくりと震えるように机に置くと

「すまない、すまない…ううっ…悪かった…あぁっ…。」

啜り泣きながら謝りだしたのだ。