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第11章 父

「あぁ…ここに桜茶があるのは、偶然なのか？
…ここに、私が居るのも、偶然なのか？
…私には、必然に感じてならない…。
亡くなった美由紀のご両親に…あぁ…あの時の…
あの時の約束を、思い出せと言われてるみたいだ…うっうっ…」


父は、わなわなと肩を震わせ手で顔を覆い隠し、咽び泣き出した。

手の隙間から、幾つもの涙が零れては落ちている。

父のこんな姿は初めてだ。

男泣きを堪え、咽ぶ声を漏れ聞いてしまうと、自分まで哀しくなり胸が締め付けられてしまう。

何より、中年の大の男が人前では泣かないものだろう。

本来なら、誰にも見られたく無い姿ではないか？

それが父なら…居た堪れない想いで声もかけられず、ただ成り行きを黙って見守る他なかった。

こんな父の姿を見てしまうと、何があっても無条件に過去の事は許そうと思ってしまう。

あたしは、父がそれほど嫌いではなかったのだろうか？

「あなた…。」

母がお手拭きを差し出すと、父は黙って受け取り顔を拭った。

そして、顔を拭い去った父は別人の様に落ち着いて

「取り乱してしまった。すまない…。
今日は、恥ずかしながら詫びに来たんだ。」

と切り出した。