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第11章 父

父にそう聞かれた隆盛は、少し照れたようにはにかんで、あたしを見つめた。

あたしも、恥ずかしくなって俯いてしまう。


「 素直じゃない所でしょうか…。」

「 えっ？」

「 例えるなら、懐かなかったノラ猫が、私にだけは懐いて心を開き、甘えてくるんですよ。そりゃ、飼い猫にして一生可愛がりたくもなるでしょう？」

隆盛は、蕩けるような笑顔であたしを見つめた。

「ははっ、私の娘はノラ猫ですか？
自分にだけは、甘えてくれるねぇ…。それは、分かる気がします。

私も、美由紀が甘えてくれるように頑張ることにしましょう。」

「まぁ…お父さんったら。」

母も、満更でもないようだ。


「 あぁ…、そう言えば、君たち今日は結婚記念日になる訳だね。じゃ、今日はもう帰って二人でお祝いしてはどうでしょう？」

父の予想外の提案に、隆盛とあたしは顔を見合わせて驚いた。

そっか…今日、結婚したことになるから記念日になるわけかぁ。

朝から、バタバタしててそれどころじゃなく、迂闊にも忘れてた。


結婚記念日…。


父が、思い出させてくれた言葉で、あたしの中は甘い期待で膨らんだ。

「 そうでした…それでは、お言葉に甘えて今日は、お暇(イトマ)します。
ありがとうございました。」


隆盛は、口をつけて無かった冷めてしまった桜茶を一気に飲み干し、御暇の言葉を告げていた。