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Only you……
第1章 麻都 1
今日も定刻通りの起床。しかし、居間には昨日の朝のように、俺の横で寝息をたてる明はいない。当たり前か。俺が傷口をえぐってしまったわけだし。
起き上がると、遮光カーテン(高級ブランドのオーダーメイド品)を勢いよく開けた。まだ薄暗いが、ほんのりと遠くの方が明るくなりだしている。しばらくその光景を眺めると、今度は使用済みの布団を片付ける――といっても、たたむだけだが。俺は面倒くさがりなもので、今晩も使う予定の布団をわざわざしまったりはしないのだ!
今日はブルーのシャツに黒のネクタイ。若い男性社員に慕われるコーデだ。頭が良さそうに見えるらしい。まぁ、実際にも頭が良い自信は十分にあるが。良き先輩、良き上司として、慕われるのは悪くない。
チンッ――
今日も豪快な音がした。飛び出したトーストに素早くバターを塗り、牛乳で流し込む。昨日明が作ってくれたグラタンの残りを綺麗にたいらげ、一服する。
明の痩せた体の感触が、明の怯えた目が、鮮明に思い出される。何度も抱いたはずの体なのに、あんなに痩せていたなんて……。実際、俺は明のことを考えていなかったのかも知れない。自分のことばかりで、アイツの気持ちなんて、二の次になっていたのかも。
嫌な考えを頭から追い出すように首を振り、灰が落ちる寸前の煙草を消した。灰皿でぐりぐり押しつぶし、軽く水をかけて完全に消火すると煙草専用のゴミ箱へと放った。それから消臭剤を撒き散らす。明は煙草の匂いが大嫌いだった。
いつもの鞄を傍らに、今日も俺は置手紙することにした。
「昨日は……ごめん――」
書いた紙をぐしゃぐしゃに丸める。
「それはあえて書かないとして。今日の……帰りは7時頃。……飯、うまかった……サンキュウっと、これでいいか?」
もう一度読み直してみる。実は俺、作文が苦手だったりする。完璧理系人間なもんでね。
これでいいと納得すると、愛車で会社へと出発した。