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Only you……
第6章 明 3
オレが店内に踏み入った途端、動物たちがオレに向かって一斉に吼え始める。オレは驚いて身を縮めた。
「そんなに警戒しないでください。向こうも怖がってしまいますよ」
店員がオレに差し出したものは、小さな子猫だった。つぶらな瞳でオレを見上げ、「にゃぁ」と小さく鳴いた。恐る恐る手を伸ばし猫の頭を撫でると、さらに「にゃぁ、にゃぁ」と鳴き、オレに飛びついた。
「……可愛い」
思わずそんな言葉が飛び出し、オレは微笑んだ。
「可愛いでしょう? その子は最近人気の種類なんです。他にもあっちの子とか……」
一生懸命動物を薦める店員に、オレはだんだん申し訳なくなってきた。別に客としてここに現れたわけではない。たまたまここを通りかかり、たまたまここの動物たちが目に止まっただけのこと。
「あの、オレ、動物買いに来たんじゃないんで……」
オレが申し訳なさそうに言うと、店員はなぜか先ほどよりも目を輝かせた。
「それじゃあアルバイト希望!!?」
「へ?」
オレの腕から子猫がするりと飛び降り、軽快に腰を振りながら歩いていった。それでもオレは猫を抱いていたときのまま、腕を持ち上げていた。
「やー助かるよ! 最近のペットブームに便乗して沢山仕入れたのはいいんだけど、世話が大変でね。あ、履歴書は持ってきた?」
店の奥のほうへと歩いていく店員の背中を見つめ、オレは困っていた。勘違いされ、喜ばれている。先ほどよりも申し訳なくなってくる。
「どうした?」
くるりとオレの方に振り向き、店員は尋ねた。
「オレ……バイトでもないんで……」
「え?」
店員は困ったような顔をした。
「そう、なんだ……。いやぁごめんね、俺の早とちりで」
頭を掻きながら、すまなそうに言った。オレは「いや、オレが悪いんで」とへこへこ頭を下げる。
「でもさ、動物、好きなんでしょ? だったらここで働いてみない? 楽じゃない割に給料安いけど……」
オレの心は揺れた。初めて見た沢山の動物たち。そしてそれに囲まれる生活。それはオレにとって、凄く魅力的なものに思えた。
オレがいつまでも黙っていると、店員はにっこりと微笑んだ。
「興味があったらまた来てください。できれば履歴書持参でね」