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Only you……
第6章 明 3
オレンジ色が青に変わり、そして黒に交代する頃。
「たら~いま~!!」
玄関から麻都の間抜けな声が聞こえてきた。オレはバタバタを慌しくリビングを飛び出す。
「おっかえり」
水色のエプロンが腰に絡み付いてきた。それを払って直すと麻都の鞄と上着を受け取る。寝室に着替えに行った麻都と反対に、オレは麻都の仕事部屋へと荷物を運び、キッチンへと立つ。後は暖めるだけの味噌汁と野菜炒め、炊き上がったご飯を茶碗に盛っている間に、鯖を焼く。
着替えを終えた麻都がリビングへと姿を現す頃には食事はダイニングテーブルに並んでいる。
そんないつも通りの生活。
「おっ、今日は魚かぁ。骨とるのが面倒なんだよなぁ」
「文句を言うな! はいはい、席に着いて」
ぐだぐだ言う麻都の背中を押して席に座らせると、オレも向かいに座る。両手を合わせて「いただきます」と言えば、麻都も真似して手を合わせる。
カチャカチャと、食器の擦れる音がする。
オレがぼーっとしていると、麻都が言葉を発した。
「そういえば、今日りんと何話してたの?」
麻都はナイフとフォークの使いは上手いくせに、箸はやたらに下手だった。皿の上の鯖は、見るも無残な姿へと変貌していた。
「何って……色々と」
「色々? 教えてくれないならこれあーげないっ」
にやっと笑いながら麻都がオレに見せたものは、パステルグリーンの封筒だった。オレはそれが何なのか分からず、首を傾げるだけだった。
「りんから明宛の手紙ぃ~」
子供みたいにひらひらと手紙を泳がせる麻都。しかしオレは麻都の期待を裏切るように大した反応を見せなかった。
「あげる、あげない以前に、それはオレのじゃんか」
味噌汁を啜りながら言った。麻都は拗ねたように「ちぇ……」と言うと、その手紙をオレの前に置いた。
オレは手紙の封を切ると、中から1枚の紙を取り出した。そこには几帳面な字で短い文が書かれていた。
『何かあったら相談にのるからね。090-××××-××××』
オレはそれを見てくすりと笑った。