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Only you……
第6章 明 3
突然引き剥がされ、オレは麻都を見上げた。
「1、 晩御飯は作ってくれ。2、俺も店の様子を見たい。3、明に携帯を持たせるから、肌身はなさず持ってろ」
立てる指の本数を除々に増やしながら、麻都は言った、そして最後に「守れるか?」と尋ねた。オレは「もちろん!」と拳を握って答えた。
「したら明日の昼休みに見に行くかな。早い方がいいだろう?」
オレは満面の笑みで答えた。
オレの初めての就職――といってもフリーターだけど――が始まるのだ。妙にウキウキしながら残りの今日を過ごした。
ベッドに収まってもオレの熱はなかなか冷めず、麻都に「早く寝ろって」と怒られてしまった。
――明日かぁ……。
明日のことを思えば、のんびり寝てなんかいられなかった。まるで旅行に行く前日の小学生のようだった。
10時頃に起床するとオレは身支度を整え、今晩の下ごしらえをした。それから麻都が昨晩出してくれた履歴書に詳細を記入する。こんなものを書くのはもちろん生まれて初めてで、オレは多少ならず緊張していた。高鳴る心臓を深呼吸で落ち着かせ、意を決して書いた。
「な、名前……野沢 明。で、住所は……」
麻都が電話番号や住所のメモを残してくれたおかげで、オレはそれらを写すだけで大半を記入し終えることができた。しかし、裏面の志望動機なんかは全く思いつかず空白のままになっていた。学歴の部分も空白。こんなんで大丈夫なんだろうかと不安になってきた。
「な、なんとかなるさ……うん、きっと」
だんだん弱気になる自分をなんとか勇気付けようとするが、余計に落ち込んでくる。
時計を見上げれば、既に11時を過ぎていた。
オレは急いでコートを羽織ると鞄に履歴書を詰め込み麻都との約束の場所へ向かう。街の喫茶店だった。
はぁはぁいいながら走り、やっとのことで喫茶店へ着く。時間は約束の12時ギリギリだった。