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Only you……
第8章 明 4
「麻都はオレのこと、愛してなくてもいいよ。それでもオレはいいから」

抱きしめる腕に力を込める。このまま離れてしまわないように。今手放してしまえば、一生会えなくなる気がするから。

麻都がふっと、肩の力を抜いた。そして静かに告げる。

「もう寝るか……」

苦しそうに笑った。


オレは鉛を飲ませてしまったのかな……?



「ごめんなさい!!!!」

オレは朝っぱらから土下座していた。開店前の店の中に客はなく、オレは謝罪の言葉を羅列していた。村中さんは苦笑いを浮かべながら「いいよ、いいよ」と顔の前で手を振っていた。

「無断欠勤で本当にごめんなさいっ!!」

簡単に許されていてはオレの気が収まらず、それでも謝りつづけた。

「もういいってば。それよりも、早く散歩に行ってきてあげなさい」

犬たちの入っているケースを見ると、今にも飛び掛らんばかりに目を輝かせていた。オレは「はい……」と返事を返すと、リードを手に店を出た。春はもうやってきたようだ。風が柔らかく気持ちいい。ふわりと髪がなびいた。

いつもの散歩コースをぐるりと回る。犬たちも元気一杯走り回り、オレもさすがにくたびれた。

しかし、そうとも言ってられず、店に戻るなりレジを任されてんてこ舞いだった。接客も慣れたとはいえ、ドッグフードの違いなんかは皆目見当もつかない。そこはやはり村中さんを頼るしかなかった。

空前のペットブームとはいえ、世は不景気で、ペットショップにはとめどなく客が来るといったことはない。自然と村中さんとの会話は増えた。

「村中さん、昔の麻都ってどんなだったんですか?」

思い切って、そんなことを尋ねてみたりする。

「うーんそうだなぁ……頭の切れる頼りがいのあるやつだったよ」

にっこりと笑顔で答えてくれる。オレはなんだかホッとした。

「でも、高3くらいからかなぁ、突然近寄りがたくなってね。それからは違う意味で一目おくようになってた」

それはりんさんが言っていた、家族が事故死した後ということだろう。オレが考え込んでいる様子を見て、村中さんは慌てて言葉を補った。

「あ、でもほら? 別に悪い奴って意味じゃないよ。それに、そんな雰囲気今は全然だもんな」

確かに今の麻都には、近寄りがたいなどどいう言葉は無縁のようだ。どちらかといえば、黙っていても人が寄ってきそうなオーラを出している。
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