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Only you……
第8章 明 4
「恋、人とか、は?」
恐る恐る小声で聞いてみる。聞こえなくて聞き流してくれてもいい。でも知りたかった。
村中さんはにやっと笑うと「やっぱり気になるんだぁ」と言った。
「麻都が男も女もオッケーなのはみんな知ってたよ。だから余計に競争率高かったなぁ」
遠くを見るような目で虚空を見詰め、思い出を話す。オレは黙って耳を傾けていた。
「でもあんまり、マジになってる感じじゃなかったかな? ま、俺が見た限りではってことだけど」
「はぁ」
曖昧な返事を返したところで客が来た。オレたちの雑談はそこでお開きになった。
家に帰り夕飯の支度を終え、麻都の帰宅を待つ。この前言われたように、オレは新聞を読もうと挑戦していた。
「昨夜、大阪市内の、女子高生が、――?」
いきなり知らない漢字が現われた。調べようにも辞書の引き方さえ分らないので早くも断念する。広告でも見てみようかと手を伸ばしたとき、それを制止するかのように電話のベルが鳴った。オレは驚いて縮み上がる。
ルルルルルーッ――。
「もしもし?」
『渥美ですが』
――渥美……?
名乗られても誰か分らず、オレは首をかしげていた。
『明くん? 渥美 りんですけど』
「あ、もしもし!」
ようやく相手が誰なのか理解でき、オレは思わず大きな声を上げた。りんさんは「もうちょっと静かに喋ってね」と厳しい口調で言った。
『会議が長引きそうだから、帰りは少し遅くなりそうよ』
「そうですか、どうも親切に……」
『副社長命令よ。“明に電話してくれー!!”ってね』
麻都の真似をしながらりんさんは話した。オレはそのあまりにもツボを抑えた物まねに、思わず吹き出してしまった。
『それじゃ――』
「待って!!」
電話を切ろうとするりんさんに、オレは叫んだ。「なぁに?」という驚いたような返事が返ってくる。
「少し、話てもいいですか……?」
控えめに尋ねる。りんさんは少し唸ると、「OK。10分だけよ」と言ってくれた。その言葉使いは決してきついものではなく、オレはほっと安堵した。
「……オレって、麻都にどう接したらいいんでしょうか……?」
あまりにもストレートなオレの質問に、電話口からは「へ?」という間抜けな声が聞こえた。そのりんさんのものとは思えない声に、オレは苦笑した。