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Only you……
第8章 明 4
「麻都、最近元気なくて。元気付けてあげたいけど、特別なにもしてあげられなくて……」
ふふっという笑い声が耳をくすぐる。オレは可笑しなことでも言っただろうかと考えた。
『そのままでいいのよ』
“そのままでいい”という言葉になんとなく勇気付けられた気がした。
『麻都さんはね、今忙しいの。私たちには何の手助けもできない。でもね――』
りんさんはそこで一呼吸置くと、また語り始めた。
『いつも通りリラックスできるようにしてあげられれば一番いいはずよ?』
――いつも通り……?
『帰る場所までいつもと変わってしまったら、落ち着ける所がないじゃない』
カチッっと音がして、時計の針が動いた。話を始めてから丁度10分が経ったことを静かに知らせる。りんさんが「じゃあね」と言って電話を切った。オレはそのまま受話器を置くことが出来ず、しばらくそれを握り締めていた。
“そのまま”、“いつも通り”。それでいいのかという疑問は、未だに絶えはしなかった。しかし、それでもいいのかと思えるようになっていた。無理に元気付けようとなんて、しなくてよいのだと。
「……ありがとう」
受話器に小さくお礼を言うと、そっと元に戻した。
オレはタオルケットを引っ張り出し、ソファの上で丸くなった。いつも通り、いつも通り。のんびりと麻都の帰りを待てばいいのだ。
パッっと部屋の電気がつき、オレは慌てて飛び起きた。
「お、お帰りっ」
疲れた顔の麻都に満面の笑みで飛びつく。麻都は突然の出来事に驚いて固まっていた。
「今日は麻都の好きな生姜焼きだよ!」
鞄と上着を受け取ると、いつもの場所に片付ける。後ろから麻都が近づいてきた。オレはなんとなく緊張する。
少しの間。沈黙。
オレはいつまでも片付けているふりをして、麻都の言葉を待っていた。
「ただいま」
オレは普通でやっていけると確信した。
ふふっという笑い声が耳をくすぐる。オレは可笑しなことでも言っただろうかと考えた。
『そのままでいいのよ』
“そのままでいい”という言葉になんとなく勇気付けられた気がした。
『麻都さんはね、今忙しいの。私たちには何の手助けもできない。でもね――』
りんさんはそこで一呼吸置くと、また語り始めた。
『いつも通りリラックスできるようにしてあげられれば一番いいはずよ?』
――いつも通り……?
『帰る場所までいつもと変わってしまったら、落ち着ける所がないじゃない』
カチッっと音がして、時計の針が動いた。話を始めてから丁度10分が経ったことを静かに知らせる。りんさんが「じゃあね」と言って電話を切った。オレはそのまま受話器を置くことが出来ず、しばらくそれを握り締めていた。
“そのまま”、“いつも通り”。それでいいのかという疑問は、未だに絶えはしなかった。しかし、それでもいいのかと思えるようになっていた。無理に元気付けようとなんて、しなくてよいのだと。
「……ありがとう」
受話器に小さくお礼を言うと、そっと元に戻した。
オレはタオルケットを引っ張り出し、ソファの上で丸くなった。いつも通り、いつも通り。のんびりと麻都の帰りを待てばいいのだ。
パッっと部屋の電気がつき、オレは慌てて飛び起きた。
「お、お帰りっ」
疲れた顔の麻都に満面の笑みで飛びつく。麻都は突然の出来事に驚いて固まっていた。
「今日は麻都の好きな生姜焼きだよ!」
鞄と上着を受け取ると、いつもの場所に片付ける。後ろから麻都が近づいてきた。オレはなんとなく緊張する。
少しの間。沈黙。
オレはいつまでも片付けているふりをして、麻都の言葉を待っていた。
「ただいま」
オレは普通でやっていけると確信した。