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Only you……
第8章 明 4
「いらっしゃいませっ!!」
威勢よく挨拶をしたら、元気がよすぎて少し引かれた。どうもオレは今日、勢いがありすぎるらしい。散歩のときも、犬たちよりも張り切っていた。
「この子可愛いわね」
マダム――そんな言葉が似合いそうなサングラスをかけた女性が、オレに話し掛けた。
「その子は今人気のチワワで、毛並みもよく、血統書もついていますよ」
マダムは檻に指を差し込んだり、抜いたりして、犬をからかっていた。犬の方も遊んでもらって嬉しいらしく、千切れんばかりに尻尾を振っている。
いい子がいたら買おうかなという客と違い、この人は買うつもりで来ている客だった。これは上手くいけばお買い上げか、と思い、オレは村中さんに目配せした。
「トイレなどの簡単な躾はもちろんしてあります」
「まぁ、この子買うわ」
最後のオレの言葉が決定打になったか否かは定かでないが、マダムがこのチワワを買うことを決めたので、オレはレジに立った。
この手の客は餌やら、ケースやら、おもちゃやら、いろんなものをいっぺんに買っていくからレジは大変だった。バーコードの無いものは番号を打ち込まなくてはいけないし、おつりの小銭も間違ってはいけない。オレは手に汗かきながら作業をしていた。
「ありがとうございましたっ!!」
また少し威勢よくしすぎたかと思った。が、マダムはそんなこと気にした様子もなく真っ赤な高級車で去っていった。