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Only you……
第8章 明 4
「あれ……?」
「どうしました?」
ふと上がった疑問符に、オレは尋ねた。村中さんはレジをいじっている最中。もうすぐ店を閉めようと思っていた矢先だった。
「合わないんだよ。金額と商品が」
オレは顔が青くなった。オレが番号を打ち間違っていたからだ。沢山買っていったので値段の違いに気がつかなかったが、誤って隣の犬のコードを打ち込んでしまったらしく、そこには万単位の誤差が出ていた。
「ど、うし、よう」
オレの異変に気付き、村中さんがオレを見た。オレは震え出す指を握り締めるしか出来なかった。
「ヤバイ……どうしよう」
オレはとんでもないことをしでかしてしまった恐怖に、涙が溢れてきそうになった。頭の中では、どうすれば償えるのかということばかりがぐるぐると巡っている。
「……大丈夫だ、俺が何とかするよ」
本当は大丈夫なわけはないのに、村中さんはオレの背中をさすりながら慰めてくれた。オレは肩を震わせながら村中さんに体を預けていた。
「これくらいで泣くな」
村中さんはオレの頭にチョップをすると、にかっと笑った。
「村中、さん……」
「いい加減、拓朗って呼んでくんない?」
こんなときに場違いな台詞。オレはただ目を見詰めていた。
「俺、気に入ったやつには名前で呼んでもらいたいんだ」
オレは躊躇いながらも名前を呼んでみる。
「拓、朗さん……」
うぃーん……――。
自動ドアが音を上げて開いた。オレたちはそのドアの方へと視線を移してゆく――。
そこには、目を見開いた麻都が立っていた。
「あ、さと」
オレは駆け寄ろうと手を伸ばしたが、その前に麻都は逃げるように店を飛び出した。
「マジでか! 誤解されたんじゃない?」
オレは今の自分の状況を確認。泣きながら、別の男に抱きつき、名前を呼んで――。確実に誤解されただろう。オレは更に青くなった。
「店はいいから早く追え! ちなみに俺はゲイじゃないからなっ!!」
オレの背中をぐいと押すと、振り返るオレに拓朗さんはびしっと親指を立てた。
「麻都に今度から名前で呼んでって伝えといて」
拓朗さんの伝言を胸に、オレは麻都の車が走り去ったであろう道をかけた。