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Only you……
第8章 明 4
駅のホームを走り、電車の自動ドアをすり抜ける。窓の外の風景は飛ぶように変わってゆき、オレは肩で呼吸をしていた。座席はあいにく一杯だったので、オレは連結部分に出て壁にもたれかかっていた。頭の中では、今日のことを麻都にどう説明しようかと考えている。どうやっても揉めることは間違いないだろう。
『次は~、次は~、お忘れ物のないように……』
ありきたりのアナウンスが流れ、オレは降りる用意をした。降りたらまたダッシュだ。運動不足の体に鞭打ち、オレは到着と同時に駆け出した。
途中で何度も立ち止まり、休憩もしたが、それでも歩いて帰ってきたよりは随分と早かっただろう。アパートのエントランスで暗証番号を入力してエレベータに乗り込むと、崩れるようにしゃがみ込んだ。足は酸欠状態でガクガクと震える。指先も痺れていた。
チーン――。
電子レンジの音にも良く似た機械音が響き、目的地への到着を知らせた。オレは重い足を引きずり、のろのろと部屋を目指す。さっきまではあんなに急いでいたのに、いざここまで来てみると何と説明しようか考えがまとまらなくなってくる。
「はぁ……」
溜息を1つつくとカチャリとドアを開けた。
リビングには麻都の姿があった。オレはまた仕事部屋に引きこもっているのではと思っていたから意表をつかれた気分だった。
「ごめ――」
「ごめんっ!!」
オレが謝ろうと口を開いたとき、それを遮るように麻都が叫んだ。
「ごめん、俺は明に愛してるの一言も言えないくせに、こんなことして」
その表情は、すごく悲しそうだった。その感情がオレにまで伝染してくるようで、悲しくなってきた。
「明だって、こんなヤツ嫌んなるよな。我侭ばっかり言うくせに、頼りにならなくて」
苦笑いを浮かべる麻都に、オレはだんだん腹が立ってきた。どうしてこうも、自分のことを悪く言ってしまえるのか。確かに少し前まではオレもそうだったが、今では自分自身のことも少しは好きだと言える。そう教えてくれたのは、麻都本人だったのではないだろうか。
オレは拳を握り締めていた。