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Only you……
第1章 麻都 1
走りつづけた。こんなに走ったのはいつ以来だろうか。大学のサークル以来か?
そんなどうでもいいことが頭をかすめ、気が付くと俺は全然知らない住宅街へ来ていた。俺はアイツの家なんか知らない。アイツが好きな食べ物も、色も知らない。知っているのは、煙草が嫌いなことだけ……。
ぐるりと辺りを見回す。ぼろいアパートが目に入った。なんとなくそこに目をやっていると、2階の端の部屋の前で人影が動いた気がした。俺は反射的に叫んだ。
「あきらぁー!!」
人影は一瞬びくっとし、こちらを振り向くと、慌てて部屋の鍵を開けようとしている。俺は確信した。あの影はアイツの後姿なのだと。思った瞬間、俺の足は地面をけり、階段を駆け上がり、手をのばした。部屋のドアが閉められる寸前。間一髪、俺は自分の手を、勢いよく閉められはドアの間にはさむことに成功した。
「……くっ」
が、その痛みはなかなかのものだ。俺は顔を歪め、もう一方の手を強く握ることで、痛みに絶えようと必死になった。ドアの向こうのアイツは驚き、焦っていることだろう。
「……」
俺はゆっくり顔を上げる。そこには、俺の予想していたようなアイツの姿はなかった。ただ無表情で、俺を睨みつけていた。
「なんのマネだよ」
アイツは開口一番にこう言った。そして、唖然とみあげる俺に、さらに言葉を続ける。
「ねぇ、ストーカーは困るんだよね。オレお金命だし?」
くっくっくと腹をかかえて、アイツは笑う。俺のことを? それしか考えられないよな……。
予想外の出来事に、動揺している俺は、何とか冷静さを取り戻そうと、一度深呼吸してみる。完全ではないが、さっきよりは大分落ち着いた。そして気付いた。このアパートが、ちょっとした地震によって倒壊しそうなほど、古いことに。いつも高級ブランド品しか身につけていないアイツの家が、本当にここだというのか?
そんな俺の様子に気付いたのか、腕を組み壁にもたれかかっていたアイツは言葉を冷たく吐き出す。