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Only you……
第8章 明 4
誤差の方は運良くなんとかなった。
数日の間、オレは死に物狂いで働いた。オレのせいで店が損失を被るなんて、役立たずもいいところだろう。せっかく雇ってもらったのに、首になっては意味が無い。普段はやらないようなところの掃除や、品物の整理なんかも率先してやった。それで償えるわけではないけど、誠意だけは見せておこうと頑張った。
そしてある日。
「いらっしゃいませ……!!」
あの日のマダムがやってきた。今度もサングラスをしていてその表情までは分らないが、ゴージャスさに変わりはないようだった。
「先日ここでキララちゃんを頂いた時、代金を間違えてらしたそうね?」
「あ、はい、まぁ」
オレはどうしたらよいのか分からず、曖昧に答えた。すると店の奥から拓朗さんが顔をだし、オレはバトンタッチした。
「そのことを小耳に挟んだので、是非お支払いしようと思いましてね」
マダムは蛇皮の財布を取り出し、万札を数枚抜き取ると拓朗さんに渡した。
「これで足りるかしら?」
「はい、誠に申し訳ありませんでした」
拓朗さんがおつりを返す時、オレも一緒に深くお辞儀をした。マダムはついでにペット用のベッドをお買い上げして帰っていった。
オレはほっとした思いでいっぱいだった。
「ふぅ」
拓朗さんも溜息をつく。
「この前得意先にうっかりこのこと話しちゃったんだよ。そしたらあのお客と知り合いでさ」
こんな偶然は後にも先にもこれっきりだろう。レジ打ちは慎重にしなければならない。