この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Only you……
第8章 明 4
エントランスで受け付けへと歩み寄る。麻都は慣れた様子でそこの女性に話し掛けた。
「架上だけど、いい?」
「はい。どうぞ」
カウンターの女性は、麻都が名乗っただけでカードキーをくれた。オレは頭上に疑問符をぽぽぽぽっと浮かべながら歩き出した麻都の後を追う。麻都はここの常連か何かなのだろうか。
エレベータの中に他の客はなく、静かに上の階を目指していた。
「驚いた?」
いたずらっ子の笑みで尋ねられたが、驚きすぎてわけがわからなくなっているオレは首を傾けるしかなかった。
「ここの一室を別荘として買い取ってあるんだ」
自慢げににっこりと笑う麻都。オレは目玉が飛び出んばかりに見開いた。
――ホテルの別荘……?
別荘イコール湖の近くのコテージやログハウスのイメージを持ったオレには、話がよく理解できなかった。かろうじて分ったことは、このホテルの一室が麻都の所有物であること。
「景色が綺麗なんだ」
「ほらっ」と言いながら部屋の大きなカーテンを全開にすると、そこには町の明かりがイルミネーションの様に輝いていた。点いては消えを繰り返す光に、綺麗な夜空。
オレがうっとりと窓に手をついていると、部屋のドアがノックされた。
「あーきらっ、席につけ。ディナーが来たぞ」
振り返るとボーイが豪華な料理を乗せた台をガラガラと運んできた。オレは夜景を惜しみながらも、麻都が引いてくれた席に座った。
「こちらのワインはサービスになっております」
銘柄を見せるようにしてから手渡し、ボーイは去っていった。後には思わず溜息が漏れるような豪華絢爛な料理がテーブルの端から端まで並んでいる。そしてそれに比例してナイフやフォークも数が多い。オレはその凄さに固まってしまった。
「デザートもあるから文句言うなよ?」
麻都は厚みのある大きなステーキにナイフを刺しながら言った。オレは恐る恐るスープに手を伸ばす。
「そんなに緊張するなよ。ここには俺しかいないし、マナーなんて気にしなくていい」