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Only you……
第8章 明 4
「そんなこと言ったって……」
上目遣いに麻都を睨むとスープを啜った。甘い香りと味が広がり、暖かい感覚が喉元をゆっくりと下ってゆく。
「どう?」
麻都が身を乗り出して尋ねた。
「……美味い。かなり」
前に行ったレストランなど比べ物にならないくらいだった。
感動と同時に悲しくも感じる。オレは毎日不味いものを食べさせていたようで。
「何か、ごめんな? いっつも下手な料理食べさせて……」
麻都は驚いたような顔をしてから、ふっと笑った。
「何言ってんだよ。俺、明の手料理好きよ?」
ワインをグラスに注ぐ。オレは飲めないからと制したのに、いいからと注がれてしまった。
「明の料理って和むし」
グラスを揺らしながら言う。オレはむっとして言い返した。
「田舎料理って言いたいの……?」
「いやいや、滅相もございません」
オレたちは笑った。いつの間にか、オレの緊張もほぐれていた。調子に乗ってグラスを手にする。アルコールを飲むのは生まれて初めてだった。
赤い液体が揺れている。柔らかく揺れている。
オレは静かに口付けた。
「う~ん、ワインってこんな味なんだ……。何とも言えない」
グラスを重ねるうちに、オレの目の前がゆっくりと揺れ始めた。これが酔うということなのか。ふわふわとした心地よい気分に、オレはにこにこと笑う。
デザートのアイスクリームが届き、スプーンでつついていた。バニラの甘ったるい香りに、ミントの爽やかさ。キャラメルソースが網目状にかけられている。
「あの、さ……」
不意に麻都が口を開いた。オレは咥えていたスプーンを出すと、椅子に座りなおし体勢を整える。
「ここに連れてきたのは、だな、たまには明に楽させてやりたいってのと、えーと……」
麻都が言葉を濁す。オレは長い睫を見ていた。
「いっつも迷惑かけてるし、有言も実行できてないようなヤツだけど、その……」
麻都が目を反らして頭を掻いた。それからスーツの内ポケットを探った。