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Only you……
第9章 麻都 5
透真がウェディングリングを頼んだというデザイナーはスラリとした細身の男だった。手先が器用そうで目を細めて笑っていた。黒ぶちの眼鏡を少し下げ気味にかけている。
「どうもー……初めまして」
とりあえず初めは挨拶から。相手の男も会釈を返してきた。
「お越し頂き有難う御座います。さ、こちらへ」
ソファに腰掛けることを手で促してきた。軽いお礼を述べると柔らかなアンティーク物のそれへゆったりと腰掛けた。背中に素材がフィットし、何とも言えない安心感が生まれる。
「僕が前村(まえむら)という者です。東くんから話は伺ってます。どんなデザインをご希望ですか?」
単刀直入に本題へと話を持ち込む。
俺は小首を傾げると「一点物を……」と言った。
「僕がデザインするものは全てこの世に2つとありません。その他にご希望は?」
「家事やなんかをしても邪魔にならないこと。さりげなくお洒落な感じで」
「なるほど」
スケッチブックのページを捲りさらさらと何かを書き始めた。俺が首を伸ばして覗き込もうとすると直ぐにこちらに向きが変えられた。
「こんな感じも物はどうでしょうか。ここが立体で、こちらに文字を刻めます」
鉛筆の線は細いがしっかりとしていて物の形がよく想像できた。デザインも確かにお洒落ではある。しかし、立体では家事の邪魔になりそうだった。
「立体じゃない方がいいですね。ここがもっと――こう……」
俺は指しながら希望を伝える。それを聞きながら前村という職人はデッサンを微妙に変化させてゆく。そのへんはやはりプロだけあると感心した。
しばらく話し合いを続けると、前村さんはパソコンの画面に向かい今のデザインを3Dに表した。くるくると回して見せたりして俺の確認をとる。
俺のこころは決まっていた。なんだかビビっとくるものがあったような気がするのだ。
大きく頷くと契約を結んだ。