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Only you……
第9章 麻都 5
俺とりんは近頃片付けに追われている。そろそろこの部屋ともお別れだからだ。しばらくこの副社長室は空室になる予定。
資料の整理、整頓から始まり部屋全体の大掃除や備品の点検などを仕事と平行して行っている。時々明が手伝いに来てくれてりもして助かっていた。今日もりんは黙々と、いる物いらない物を仕分けしている。
その傍らで俺は確認の判をぱんぱんと押していた。
「もう少し目を通してからにしてください」
「そんなの大丈夫だよ」
きっと睨んできたりんを尻目に、俺は判を押しつづける。報告書の確認は他でも多少やってはいるし、問題はないだろう。
それよりも今大事なのは結婚式なのだからっ。
今回も設営は開発部と企画部だった。彼らは基本的にイベントが好きなようだ。奇抜な発想を現実にする力は最も高いだろう。様々な経験から面白いことを考え出してくれたりすることも多々ある。俺も式の全貌はつかめていない。
問題なのは衣装だ。俺はまあ一般的な感じの燕尾服でキメるつもりだが、明の方はどうしようか。女顔にコンプレックスを持っているくらいだからドレスを着ろ何ていったらブチ切れるかもしれない。
リズミカルに判子を押しながら俺は「う~ん」と唸っていた。
「あ~きらっ!」
「い・や・だ!」
猫なで声で呼んでみたが逆効果だった。明は台所へそそくさと逃げ込みコンロに火を点けた。タンタンタンと何かを刻む小気味よい音に耳を澄ましていると、ぐつぐつと鍋が沸いたようだ。火力を調節する音が聞こえる。
そのうち鼻歌が聞こえ始め機嫌が良くなってきたことを知る。本当に明は料理が好きだった。
俺はこっそり台所に侵入した。
ガバッ―― 。
「ぎゃぁぁぁ!!」
後ろから突然抱きつくと明は奇声を上げた。そして凄い形相で睨んでくる。
「ちょっと! 邪魔するなって言ってるだろ!?」
驚いて涙目になっている明をからかうと、本気で怒られた。俺は明の料理中に台所へ入ることを許されていない。こうやっていつも邪魔をするからだ。いつだったかは驚かして指を切ってしまったこともあった。出血も大したことはないような傷だったが、それ以来俺は出入り禁止をくらった。