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Only you……
第9章 麻都 5
ありきたりなメロディーに乗せて会場の扉は開かれた。辺りは色とりどりの花で飾られ、まるで花畑の中心に来たようだった。明は緊張した面持ちで足元を凝視している。
俺は苦笑した。
こんなに冷静に物事を考えるふりをしておきながら、明と絡めた腕は今にも痙攣を起こしそうなくらいに緊張しているのだ。格好つかないので必死に堪えるが、いつまでもつのかは分からない。
一歩一歩を静かに踏み出す。それと共に心臓も高鳴る。
観客たちが息を飲む音が聞こえた。当然だ。俺の隣を歩く明に見とれているに違いない。
明の姿は高貴な天使そのものだった。全身を純白の衣装が包み込み、綺麗な黒髪がさらさらと流れる。
本人は「王子様みたいだ……」と喜んでいた。上着の裾はマントの様に長く、後ろから見ればスカートのようにも見えた。前は大きく開かれていてすらりと形のいい足を真っ白なズボンがさらに引き立てている。胸元を飾る白い蝶ネクタイが愛らしかった。
俺の手が汗ばんできた頃、神父の格好をした人物の前へ辿り着いた。
「病めるときも健やかなるときも――」
どこかで聞いたようなお決まりの台詞に答えるのもやっとなくらいの緊張に、我ながら笑える。明は俺よりも強張った表情で、噛みながら「誓います」と言った。声が震えていた。俺もだけど……。
「では、誓いのキスを」
そう言われて明がびくっと反応した。意外と照れ屋だから、人前でキスなんて嫌がるんだろうなと頭の片隅で考える。