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Only you……
第9章 麻都 5
「ヒューヒュー!! 新社長頑張ってぇー」
声援というのか何というのか、妙な声があちこちから飛んできた。俺は柄にもなく顔を紅く染めると明と向かい合う。不安そうな顔をしている。
「つーか、男同士の生ちゅー見ても楽しくないだろ」
そんな憎まれ口を叩いてみるが、周りはもう期待を高めているのでまったく効果なかった。
気を取り直して、俺は明の顎をくいと上へ向ける。ピンクに染まった頬が可愛らしい。ふぅと一呼吸置くと、サイドの髪を左手で押さえてキスを降らせる。
会場が静まった。
俺は明の額から唇を離すと、にんまり笑顔で言った。
「はーい公開はここまで。これ以上したら歯止めがきかなくなっちゃうからさ」
「ちょっ……麻都っ」
すっかり赤面した明と神父。俺はない余裕を見せつけるように眉を上げて笑ってみせる。会場が先ほどとは違った意味で静まった。
左手の薬指に輝く指輪。それは明との心の証。この前まではこんな形だけのものは信じることが出来なかったのに、不思議なものだ。今ではその微かな存在感が安心を与えてくれる。傍にいる時も離れている時も、変わらない想いをこの指輪から感じられるのだ。
「明ぁ?」
「……」
披露宴会場への移動中、隣の席で固まっている明に声をかける。まだ相当緊張しているらしく顔色がおかしかった。頬は妙に赤く染まっているのに、唇は固くかみ締めすぎて白くなっている。拳を握っているから掌には爪の跡がついているだろうし、眉間には皺が癖になりそうだった。
俺はリムジンの運転席と後部座席を遮るカーテンが閉められていることを確認すると、そっと明の肩へ腕を回す。俺の腕の中で、明はびくりと震えた。
「緊張してんの?」
「う、うるさいっ。してないったら」
食って掛かるような口ぶりのわりに、顔は俯いていた。睫が震えている。
「はいはい、素直じゃないんだから」
「ちょっ――」
反論しようとして顔を上げた明の顎をくいと持ち上げると、さっきの誓いの続きといわんばかりのキスをする。白くなっていた唇が紅を差したように染まっていった。