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Only you……
第9章 麻都 5
「この度はおめでとうございます」
「いえ、お陰様で、前社長の跡を無事継ぐことが出来ました」
「これからも末永くよろしくお願いしますよ、新社長」
「ハハハ……」
俺より10も20も年上の人たちに媚びを売られるのはなんとも感じが悪かった。仕方がないといえばそうなのだが。
「いやー麻都さんも立派になられましたなぁ。昔はこーんなに小さかったのに」
身振りを交えながら大した意義もない会話を繰り広げる。俺は適当な愛想笑いを浮かべていた。
「本当に立派になられて……。これからも一層会社は繁栄してゆくんでしょうなぁ」
「いえいえ、周りの方々のお力添えがあってのものですよ。私1人では会社は手に余ってしまいます」
そんなことを言いながら、残してきた明のことが気になっていた。あの淋しそうな顔。人の多いところには慣れていないだろうから、相当緊張しているに違いない。透真が気遣ってくれてはいるだろうが。
「では、失礼させてもらいます」
何とか会話を切り上げると、明の元へ戻ろうと試みる。しかしすぐにまた、違う人たちに囲まれてしまう。そして先ほどと同じようなことを繰り返すのだった。
焦りのようなものを感じ始めたが、それを隠すように作り笑いを浮かべる。わざわざ俺たち2人を祝いに来てくれたのに、むげにも出来まい。
どうにかして明の元に舞い戻った時には、もうぐったりしていた。
「あ、麻都……! 大丈夫?」
俺の疲れた表情を見てそう言う優しい明が嬉しかった。
「大丈夫だよ。おっさんたちの相手は疲れるなーと思ってね」
へへっと笑い、運ばれてきたワイングラスを受け取る。透明に近い白の液体が天井のライトにきらりと照らされた。
「オレはちょっと疲れたな……ここ、人が多くてさ」
「あぁ、ちょっと休むか?」
俺は会場の出口を目で探した――。
ガタガタッ――。
「お、おい!!」
不意に倒れた明を、俺は間一髪片腕で受け止めた。
「ご、ごめん。なんか膝が笑っちゃった……」
長い間緊張が続き、心身共に参ってきたのだろう。俺は明の肩を抱えると、ワイングラスを返して会場を出た。