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Only you……
第9章 麻都 5
人の波を縫うように通り抜け、会場の扉をくぐった。明は少しふらついているようで、俺が手を離せばくらりと倒れてしまいそうだ。
とりあえず廊下に並べられたベンチまで辿り着くと、明を休ませる。明は「ごめん」と強張った笑いを浮かべていた。俺はその隣に腰掛けると明の肩を抱き、体を傾けさせる。戸惑ったように入れられていた力はふっと抜かれた。
「ごめんな、こんな大事なときに……。オレってば根性なし」
「気にすんなって。俺たちがいなくても勝手に盛り上がってるよ」
明は俺が肩に回していた腕を軽く解くと、少し怒ったような顔をした。
「そりゃ駄目だろ。一応主役なんだから、麻都は戻った方がいい」
胸を押し返すように両手を当てられて俺は明の顔を窺った。明らかに疲れが見えているのに気丈に振舞っているのだろう。明の言う通り、俺が会場に戻らないわけにはさすがにいかない。しかし、だからといって明を1人でここにいさせるわけにはいかない。
「どこかゆっくり休めるところへ移動した方がいいな」
「ホントに大丈夫だってば。ほら行って」
ばしっと肩を叩かれて、俺は仕方なしに立ち上がった。
突然姿を消した俺たちを心配して透真が現われたので、俺は明を預けると後ろ髪を引かれながら会場へ戻ることにする。
透真はいつも通りの優しげな笑みをたたえると、明の隣に腰を下ろし缶ジュースを渡した。明はそれを嬉しそうに受け取ると、すぐにプルタブを起こした。喉を鳴らしながらオレンジジュースを流し込む。
俺は明が酒に弱いことを今更思い出した。きっと喉が渇いていたのだろう。随分と自分に余裕がなかった。