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Only you……
第9章 麻都 5

「おはようございまーす!!!」

会社の門を軽くくぐると元気のいい挨拶があちこちからかけられた。笑顔を返せば向こうからも笑顔が返ってくる。今日も元気に出勤だ。

黒い鞄を小脇に抱え軽快な足取りで階段を上る。エレベータではなく階段を、だ。しかし途中で挫折するとエレベータで社長室へ向かった。足がだるい。少し無理をしすぎたようだった。

 ガチャ――。

今までと似ていてどこか違うような社長室のドアを開ける。風景もどこかが違っていた。多分窓から見える景色が違うことが大きな原因だろう。

「おはようございます」

「おはよう……え!?」

いつもの流れで返事を返すと、俺は驚いて声の主を振り返った。

そこには眼鏡をギラギラ光らせたりんではなく、にこにこ笑顔の透真が座っている。頬杖をつきながら俺の顔を面白そうに眺めている。

「えーと……りんは?」

「彼女は遅れてきます」

「あー、そー」

「というか、これからは僕が新社長の秘書を勤めます」

「ほぉ……ってえぇ!!!」

なんでもないことのように一端流してから、改めてことの重大さに驚愕した。先ほどよりも大きく目を見開くと色々な感情の入り混じった悲鳴を上げる。

なぜりんが秘書を辞めるのか。それが最大の疑問である。

俺は幸せの絶頂からいきなり不思議な世界に叩き落されてしまった。
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