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Only you……
第2章 明 1
その瞬間、オレの全身の力が抜けた。その場に――玄関にへたりこんだ。まるで何かの呪いが解けたように、オレは放心していた。
そんなオレの髪を、頬を背中を、麻都は優しく撫でた。いつもなら客がそんな風に触れば、早々に金持って逃げるのに、今は嫌な感じがしない。――むしろ、落ち着くかもしれない。
――愛。
オレが長年求めていた言葉、モノ。一度も手に入れたことのないモノ。いつも騙され、裏切られ、奪われてきたモノ――。
今度こそ、信じてもいいのかな?
また裏切られるかも。
また騙されるだけかも。
それでも――。
それでも、今オレは縋ることが出来る唯一のモノだから、他の選択肢なんてものは無いのだろう。始めから。
「俺と、同棲してくれる?」
もう一度尋ねる麻都の声。それに、無意識のうちに頷いている自分がいた。すごくドキドキしている。こんな感情は味わったことが無い。なんだろう?
オレが頷いたのを確認した麻都は「じゃあ、料理はすること。他のことは心配しないで」と言うと、オレの額に唇を触れさせた。それが暖かくて、オレの目からまた涙が溢れた。だめだな、最近涙腺緩みっぱなしで。
「オレと住むなら煙草、止めて」
「うっ……」
煙草は毒だから。体にもそうだけど、オレの場合、心にも。
「玄関、寒いな。中入れよ」
手を引かれてオレは自然と中へ足を踏み入れた。そして、麻都は笑顔で言った。
「おかえり」