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Only you……
第2章 明 1

「……ら」

んん……?

「……きら」

声がするような、しないような。

「明!!」

「うわぁ!!」

突然大きな声で起こされた。オレの目の前にはちょっと怒ったような麻都の顔があった。高鳴る心臓を深呼吸で落ち着かせて、時計を見る。もう夜の9時を回っていた。

「玄関に迎えに来てくれないし、電気もついてないからどうしたのかと思ったら」

麻都はくしゃくしゃとオレの髪を撫でた。オレはくすぐったくて、その手から逃げようともがいていた。

帰宅した麻都を玄関まで迎えに行くのは、もうオレの日課になっていた。退屈な時間からやっと開放されるような、そんな安堵感があった。

「ごめん……」

オレはいつも面倒見てもらっているのに、最低限のこともできなくて謝るしかできなかった。

「そんな悲しそうな顔すんなよ」

ぺちぺちと、オレの頬を優しくたたいた。

そんなに優しくされても、オレは何も返してやれない。オレには何も無い。

「なぁ、腹減ったー!」

ネクタイを緩めながら、麻都は子供のように言った。

オレは慌てて、「あ、ごめん、すぐ用意する」と言って立ち上がった。下ごしらえはしてあるので、殆ど時間はかからない。が、待たせるのは悪いと思って、先にシャワーを浴びてもらうことにした。30分程で麻都は出てきた。その頃には夕飯の支度も完了していて、ダイニングテーブルに乗った皿を見て、麻都は笑顔を見せた。

「ん~今日も美味いっ」

「こらっ! つまみ食いするなよ」

ペンと麻都の手を叩いてやると、ぷぅっと膨れてタオルで髪をがしがし拭いた。
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