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Only you……
第1章 麻都 1
居間に戻ると煙草に火を点ける。自分でも驚いたが、ライターを持つ手が震えていた。俺はかなり動揺している。
どうしたものか。
色々と考えがめぐった。良くないことばかりが。その反面、俺はほんの少し、嬉しいというふうにも感じていた。明とは金のうえの関係しかないと思っていたのに、頼ってくれたのだ。俺の所へ来たというのは、そういうことだろう。
皮肉に微笑んでみた。自分に対する皮肉だ。
吸っていた煙草を灰皿へ捨てると、キッチンへ向かう。俺は明の為に、スープを作ることにした――インスタントだけど。
「何してんだよ」
すっかり枯れてしまった声で明は俺に尋ねた。俺は、ダンボール箱の山をひっくり返して、中身をあさっていた。
「何って、薬を探してんの。痛いだろ?」
「……」
明は、俯いたまま動かなかった。
「ソファーでも座ってろよ。スープ作ったから、飲んでな」
明と目が合った。俺は優しく微笑んだ。アイツが――明が涙を堪えていたから。
明が居間へ消えていったのを見届けてから、俺は再び傷薬を探しはじめた。
つい先日、部屋の大掃除をしたばかり。その時のゴミがこのダンボール箱たちの中身だった。この中のどれかに例のモノが入っているのだが、どれだったかなんて全く覚えていない。
「あった」
前に火傷をして病院に行ったときにもらった傷薬だ。切り傷にも擦り傷にも効くだろう。……多分。
居間へ行ってみると、明がソファーの上で膝を抱えていた。テーブルの上のスープには、全く手をつけていないようだ。
明は顔を伏せていた。そして、そのまま、小刻みに震えている。また泣いているのかも知れなかった。
「薬……背中出せよ」
明は声をかけても動こうとしないので、俺は隣に座り、勝手に明のシャツをめくった。それから、チューブの蓋を開け薬を出す。
傷の一つ一つはとても浅い、ちょっとしたものだった。しかし、この数は半端じゃない。両手の指を曲げ、更にのばしても足りないくらいだ。体にはいくつか、打ち身のようなものもあった。何かに殴られたような、ぶつけたような。
「……なんで」
薬を片付けようかと立ち上がったとき、不意に明が呟いた。
「なんであんたは、オレなんかに優しくできるんだよ……」
「妙なこときくね。まぁ、惚れた弱みってやつかな」
「……! あんたもあいつらの仲間なんだろ!!」