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Only you……
第4章 明 2
無意識のうちに麻都の胸にしがみついていた。
「酷い状態だ。早く病院に行ったほうがいい」
透真さんが辺りに気を配りながら言った。また不意打ちで刺されたらたまらない。
「分かってる。こいつら全員殴り飛ばしたって、怒りが押さえられない……」
低く呟く麻都に、透真さんは笑った。
「もちろん、このコもそうだが、麻都くんもだよ」
「え?」
「……腕にナイフ刺さってる」
「ヤバイ忘れてた」
どうやったら忘れられるんだと思った。どうして自分の痛みより、理解できない他人の痛みを気にするのか、それがわからない。
「あぁぁぁぁ!!!!」
麻都を刺した狂った男がオレたちの方に叫びながら襲い掛かってきた。それを透真さんはいとも簡単に萎えさせて、押し倒し、両腕を後ろに持ち上げた。そしてその両腕を頭の方へと上げてゆく。
「これ以上やると本当に折れちゃうから、あんまり暴れないでくれよ?」
小さな子供をあやすような口ぶりで、語りかけた。男は悲鳴を上げながら助けを乞うた。
『透真、SM縛りにしてやれ!』
スピーカーの男が呼びかけた。
透真さんはヘリコプターの方に目をやりながら「できねぇよ、そんなもん」と言った。そして傍に落ちていたロープ――さっきまでオレを縛っていたやつ――でぐるぐると相手を縛り、転がした。
圧倒的な強さだった。前に麻都が戦ってくれた時にも思ったが、明らかに一般人よりも強かった。それも喧嘩に強いなどという強さではなく、もっと内に秘めた美しさみたいなものがあった。
「強い……」
「あぁ、それはな――」
言いかけた麻都を制して、透真さんが続ける。
「貴正のせいだよ」
「た、かま、さ?」
オレは聞きなれない名前に首をかしげた。
「ヘリに乗ってる、社長だよ」
社長ということは、麻都は副社長と呼ばれていたのだから、上司だろう。
「おっさんの口癖が、“攻の男は強くあれ!”なんだよ……」
うんざりした顔で麻都は言う。
透真さんはなにやら微妙な笑みを浮かべた。
「僕たちはいろいろ武術をやらされてね。自分で言うのもなんだが、結構強いよ」
にっこり微笑んだまま、周りの男たちに聞かせるかのように透真さんは言った。
遠くからは、パトカーのサイレンが聞こえてきた。