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Only you……
第1章 麻都 1
俺の朝は早い。閉まったままのカーテンからは、未だに光が射してはこない。目覚し時計は使わない主義だ。そんなものは使わなくても、なぜか昔から起きることができたからだ。
隣で寝ている明を起こさないように、そっと布団を抜け出す。途中、明が寝返りをうち、俺はびくっとした。
寝顔なんて初めて見た。いつも行為の後は何の後腐れも無く帰っていくのだ。それどころか、逃げるようでさえあった。それが今、俺の目の前に、無防備な明がいる。綺麗な肌、整った顔立ち、さらさらの髪に俺はいつもどきどきさせられる。そして今も……。
「いけねっ!」
時計を見て呟くと、慌てて布団をたたむ。洗面所で洗顔を済ませると、昔ながらのトースターに角食パンを二枚セットする。その間に着替えを済ませるのが毎日の日課なのだ。
今日のシャツは薄桃色。女子社員受けがいい色だ。紺のネクタイをしめ、着替え完了。
そのときタイミングよく、チンッと威勢のいい音がした。パンが焼けたのだ。俺はその音で明が起きるのではないかとハラハラした。
ジャムをを塗り、コーヒーをいれ、朝食を済ませる。
そろそろ出社するかな。
俺は、よくサラリーマンが持っている真っ黒の鞄を掴んで、一瞬迷った。明に声をかけようかどうか。迷ったが止めておいた。せっかくよく寝ているのだ、起こすことはないだろう。代わりに手紙を書くことにした。
「仕事に行く……あるもの何でも食ってくれ……帰りは7時頃だ……っと。これでよし!」
書き終え、満足して、俺は家を出た。一人暮らしにしては大きい、2LDKのマンションを。いつもの真っ赤な車に乗り込み、いざ出陣だ。