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Only you……
第5章 麻都 3
なだめるように、落ち着かせるように、俺は抱きしめる明の背をぽんぽんとさすった。くすくすと笑う明が可愛くて、俺は頬擦りをする。
「なぁ、焦らなくていいんだよ。俺たちはまだ、出会ったばかりなんだから」
今すぐにどうこうならなくても、いいと思う。かけがえのない1分1秒だけど、だからこそ焦らず大切に過ごしたい。
「……うん」
きゅっと腕に力を込める明。俺は抱きしめたままベットへと倒れこんだ。
「ずっとこうしてるから、お休み?」
一度俺を不安げに見上げ、それから視線を落とすと俺の胸に掴まり目を閉じた。
俺は子守唄を歌ってやる。
しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
それを聞きながら、俺自身も心地よい夢の世界へと入り込んでゆく。夢の中でも、明に巡り会えることを祈って……。
翌日目が覚めると、俺は出社の準備をする。
隣で安らかに眠っている明の髪を梳き、額にキスを落とす。
ぬくもりが名残惜しかったが何とかベッドから抜け出し、いつも通りトースターに食パンをセットした。服を着替えて、サラダを出し、コーヒーを煎れる。そうしている間にパンは焼き上がり、明が作ってくれた特性のジャムをたっぷりと塗り、ほおばる。
俺の至福の時だ。
甘く香ばしい香りに包まれ、俺の朝は過ぎてゆく。
「あ、やべぇ! もうこんな時間っ」
慌てて椅子から立ち上がり、鞄を引っつかむと広告の裏に走り書きをする。
――明へ
ヤバイ遅刻する!帰9時――。
余計なことを書いて、大事なことを書かなかった気もするが、構っている暇はない。
俺は家を飛び出した。