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Only you……
第5章 麻都 3
「仕事中にイタ電かけるな!! 何考えてんだよ、まったくっ」
俺は机を勢いよく叩いた。少し手が痺れた感じがする。
「さ、さぁ、なんのことかな~?」
俺と目を合わせないようにしながら、おっさんは鼻歌なんか歌っていた。
「しらばっくれるなよ。透真がいなくて暇だからって……」
おっさんは回転椅子をぐるぐる回しながら、ぷぅと頬を膨らませている。なんともアホらしい。
――そうだ、大事なこと忘れてた。
「ちゃんと病院行ったのか?!」
俺は突然大事なことを思い出し、そう言った。
おっさんは両手で耳を覆うと、ぎゅっと目をつぶった。
「その様子だと、行ってないみたいだな……」
最近、おっさんの体調がおかしい。軽い発作もおこすようになった。おそらく患っている心臓が、何らかの合図を送っているのだろう。
透真は祖母の様態が悪いらしく、透真は最近会社を休みがちだった。俺は24時間おっさの傍にいられるわけではない。だから一度きちんと病院に行って欲しかった。
おっさんの命が長くないことは、出会った時に教えられている。
透真が会社にあまり顔を出さなくなってから、俺はできる限りおっさんの傍にいた。目を離せば何をしでかすかわからない。自由奔放で我侭で、ほんっとに手のかかるオヤジだった。
実の父親ではない。あくまで俺を養ってくれた養父。しかし、親友のような関係でもあった。透真のことだって、俺は兄のように思っている。
そんなおっさんの体の変化に気付いたのは、くっついているようになってすぐだった。暑くもないのに汗をかいていたり、いつも以上に日差しをさけたり。
体調が悪くなっているのは、素人目にも明らかだった。
そんなおっさんに、俺は近頃しつこく付いて回り、病院に行けと騒いでいた。
次に大きな発作が起これば、死んでしまう。
そんな言葉が頭にまとわりついて、俺は四六時中おっさんを追い掛け回した。透真がいない間、おっさんを守ってやれるのは俺だけなのだ。
最近痩せてきているようにも思えて、なおさら俺は不安だった。
長身のくせに軽い体重。
せめて透真が戻ってくるまで、俺はおっさんを、貴正オジサンを守らなくてはならない。