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Only you……
第5章 麻都 3
「だって、透真がいないから暇なんだもん……」
拗ねたように口先を尖らせて文句をたれているのは、10以上離れた社長の貴正オジサンだった。
ここは社長室で、俺はダンッと机に手をついたまま止まっていた。
おっさんは相変わらず回転椅子をぐるぐる回し、時々切なそうに窓の外を見ていた。
俺にはそんなおっさんに、何もしてあげられなかった。ただ周りで、「病院に行け」と騒ぐだけ。それでは何も変わらないのに。
「暇って……仕事しろよ」
言葉に詰まって、俺はそんなことを言った。
「そうだな、悪かった」
――なんだよ、妙に大人しくして……。
俺はなんだか、頼りにされていない気がして、悔しかった。家族だと思っていたのに、友だと思っていたのに、それが自分の一方通行な思い込みば気さえしてきた。
そんなとき、俺に1つのアイディアが浮かんだ。明を悲しませることもなく、かつおっさんともいられる方法。
「おっさん……今夜って暇?」
「ん? なんだ、デートの誘いならお断りだぞ。私はなんたって透真一筋……」
「あー!!! 分かってるって」
自慢気に話すおっさんを制する。透真について語らせたら、午前中丸まる潰れてしまう。
「だから、暇かって聞いてるの!」
「……暇だけど?」
「ならさ……」
俺は少し恥ずかしくなってきて、言葉に困る。そんな俺を不思議そうにおっさんが見つめいていた。
「なら……うちに来ないか? りんも誘ってさ」
「……???」
ことの真意が読めないのか、おっさんは首をかしげたまま訝しげに俺を見ていた。
俺は構わずに続けた。
「明って料理上手いんだぜ! 食わしてやるよ。たまには集まって騒ごう!」
おっさんは目を見開いて驚いた後、にっこりと微笑んだ。それは40代の大人な笑みではなく、小学生や中学生の無邪気な微笑みそのものだった。
「そうと決まったら、今夜は残業できないなぁ」
嬉しそうにそう言うと、おっさんは散らかった机の上を片付けてパソコンを立ち上げ始めた。どうやら、ようやく仕事をする気になったらしい。
――やる気になったときだけ働くなんて、いいご身分だコト。
そんなことを思いながら、俺はそこを後にした。俺の部屋ではりんがさぞかし怒っていることだろう。
俺は恐ろしさのあまり、身震いした。