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Only you……
第5章 麻都 3

 コンコン――。

「失礼します……」

自分の部屋なのに、俺はノックをし礼をしてから足を踏み入れた。

中には黙々と働くりんの姿があった。俺のほうには見向きもせずに、紙切れとにらめっこだ。

そんなりんに、俺は意を決して声をかける。

「あのぉ……りんさん、ちょっといいですか?」

「何か?」  

これじゃあ、どっちが上司なのか分からない。

「今夜ってお暇ですかね? よければうちに集まろうかと、社長とお話してまして……」

りんは顔を上げると、眼鏡を直し俺を見た。

「暇じゃないけど、行ってもいいですよ」

――結局暇なんじゃないか……。

そんな俺の心中なんかつゆ知らず、今夜の集まりは決定した。

俺は携帯電話をとりだし、自宅へとかける。明に、「今日は豪華にしてくれ」と頼むためだ。

 ルルルルル――。

電話のベルが鳴り続く。寝ているのだろうか。なかなか出ない。

 ルル、ガチャ――。

『もしもし……?』

電話越しに怯えたような声がする。

「あ、俺だけど」

『麻都……何? 晩御飯いらない?』

ほんの少し、明の声のトーンが上がる。

「いや、むしろ逆。今日りんとおっさんが来るから、豪華にして」

『お、お客?!』

電話の向こうで慌てふためく明が想像できるくらい、驚いた声が聞こえた。俺は笑いを堪えるのに必死だった。

「じゃ、頼んだよ」

『え? あ、うん』

大丈夫なのかと思いつつも、電話を切る。今夜の様子を思い浮かべるだけで、胸が躍る。

「終わったのなら早く働いてください。今日は残業できないんですよ」

いつまでも立っていると、りんから鋭い叱責が飛んできた。急いで席につくと、「へいへい」と言いながらも仕事に取り掛かった。
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