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Only you……
第5章 麻都 3

そんな俺に、おっさんは優しく微笑みかける。

「死ぬことが怖くないわけはない」

諭すような口調で、語りかける。

俺はただ、黙って耳を傾けていた。

「でもな、それさえも超えるほど、私は幸せな人生を送っていると思うんだ」

不意に俺の目を見つめる。

「麻都、お前に出会ったことも、私の幸せの1つだよ」

そう言って、俺の頭を抱え込むように抱きしめた。

気付かなかった。知らないうちに、俺の頬は涙で濡れていた。

「ははっ……いくつになっても泣き虫だな、麻都」

「馬鹿にしてっ! そもそも、初めて会ったのだって高校生だったじゃないかよ」

柄にもなく、俺は拗ねていた。いつもはおっさんに振り回されっぱなしなのに、こういうときだけ大人ぶるのはずるい。――なんて、俺もまだまだこの人の前では子供だった。


少し離れたところからはりんが明に絡む声が聞こえる。それと共に、明の悲鳴も。


おっさんの肩にもたれてるのも、たまには悪くない。父の温もりというかなんというか、いやに落ち着くのはなぜだろう。

そこには血のつながりも、何もない。ただ出会って、ただ親しくなって、いつの間にか他人という領域をはみ出していた。知り合いという関係さえも超越して、俺たちは同居もしていない家族になる。そこにはやはり、無償の愛があるのだろう――。

こんな関係だって、悪くないんだ。

孤独を埋めあうために集まった俺たちだけど、いつの間にか愛し合ってるんだ。


「愛してる……」

自然と口から零れた言葉。自分でも不思議だった。ただ、今言わなくてはならない気がした。

「そんなの当たり前だろう? 私だって愛してるさ……」

おっさんが照れた風もなく言った。真っ直ぐに前を見て。

かっこいいと思った。素直にそう思った。
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