この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Only you……
第5章 麻都 3
そんな俺に、おっさんは優しく微笑みかける。
「死ぬことが怖くないわけはない」
諭すような口調で、語りかける。
俺はただ、黙って耳を傾けていた。
「でもな、それさえも超えるほど、私は幸せな人生を送っていると思うんだ」
不意に俺の目を見つめる。
「麻都、お前に出会ったことも、私の幸せの1つだよ」
そう言って、俺の頭を抱え込むように抱きしめた。
気付かなかった。知らないうちに、俺の頬は涙で濡れていた。
「ははっ……いくつになっても泣き虫だな、麻都」
「馬鹿にしてっ! そもそも、初めて会ったのだって高校生だったじゃないかよ」
柄にもなく、俺は拗ねていた。いつもはおっさんに振り回されっぱなしなのに、こういうときだけ大人ぶるのはずるい。――なんて、俺もまだまだこの人の前では子供だった。
少し離れたところからはりんが明に絡む声が聞こえる。それと共に、明の悲鳴も。
おっさんの肩にもたれてるのも、たまには悪くない。父の温もりというかなんというか、いやに落ち着くのはなぜだろう。
そこには血のつながりも、何もない。ただ出会って、ただ親しくなって、いつの間にか他人という領域をはみ出していた。知り合いという関係さえも超越して、俺たちは同居もしていない家族になる。そこにはやはり、無償の愛があるのだろう――。
こんな関係だって、悪くないんだ。
孤独を埋めあうために集まった俺たちだけど、いつの間にか愛し合ってるんだ。
「愛してる……」
自然と口から零れた言葉。自分でも不思議だった。ただ、今言わなくてはならない気がした。
「そんなの当たり前だろう? 私だって愛してるさ……」
おっさんが照れた風もなく言った。真っ直ぐに前を見て。
かっこいいと思った。素直にそう思った。