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Only you……
第6章 明 3
それはお昼頃のことだった――。
ルルルルルッ――。
電話の呼び鈴がけたたましく鳴り響いて、オレはソファから飛び起きた。バクバクいっている心臓に手を当てて落ち着かせると、恐る恐る受話器を上げる。
麻都からの電話なら、問題はない。でももしそれ以外からのものなら、オレは緊張のあまり倒れそうになる。極度の上がり症のようだった。
「も、しもし……」
緊張して声が上ずった。
『もしもし?』
受話器の向こうから聞こえてくるそれは、間違いなく麻都の声だった。オレはほっと胸を撫で下ろす。
「どうした? 残業?」
『あ、いや』
妙に焦ったような、いつもと違って落ち着きが感じられない。
『俺の仕事部屋の机の上に、もしかして、A4サイズの茶封筒乗ってない?』
恐る恐る、といった感じで尋ねてくる。オレは「ちょっと待ってて」と言うと、急いで確認に向かった。普段は入ることの許されない麻都の部屋は、麻都の香りで満たされていた。
そんな空気に浸っている暇もなく、机へと視線を向ける。と、そこには――。
――あった……。
A4がどの程度の大きさなのか分からなかったが、とりあえず結構大きめの封筒があることは分かった。オレはそれを手に、仕事部屋を出た。
「あったよ? オレの顔くらいの封筒が」
『うわー!! やっぱりかっ』
悲鳴にもよく似たものが、耳に飛び込んできた。思わずオレは受話器を耳から遠ざける。
『りん、あるって……』
その言葉はオレに向けられたものではなく、一緒にいるのであろうりんさんへのものだった。
『あ、明、今からそれ、りんに取りに行かせるから』
麻都の声は申し訳なさそうだった。どうやら忘れ物だったらしい。
『じゃあ』と言って切ろうとした麻都に向かって、オレは「あ、待って!」と叫んだ。
「あのさ、オレが届けるよ。ここから近いんだろ?」
『え、そりゃ、まぁ……』
オレは麻都のために何かを出来る、またとないチャンスだと思った。そのために忘れ物を会社まで届けに行こうと決意した。