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Only you……
第6章 明 3
会話を終えて少し経つと、電話機がウィーンと無気味な音を出しながら震え始めた。オレはそんな状態を初めて見たので、少しびくついていた。
最近の家庭用電話機には、ファクシミリという画期的な機能がついたらしく、麻都のへたくそな地図が送られてきた。オレはそれを手に、コートをひっかけ家を出た。
「ふう……」
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、小さく吐き出す。まるで肺の中の空気をすべて取り替えるように、その行為を数回繰り返すと、オレは駅へと歩き出した。
麻都の地図に書き込まれたメモを見ながら、オレは行き先を確認し地下鉄の切符を買った。ここから2駅先で降りて、15分くらい歩くと着くらしい。
ホームに定刻通り滑り込んでくる電車に乗り込むと、空いている座席に腰を落ち着ける。今日は思っていたよりも混んでいなかった。
しばらくすると車内アナウンスが流れ、いったん大きく揺れると電車は発進した。
――無事にたどり着けるかな……?
オレが言い出したことではあったが、正直不安も大きかった。麻都の会社なんて行ったことはないし、見たこともない。社名だって地図に書かれているのをみて、初めて知ったのだった。“佐伯自動車”というらしい会社が、どのくらいの大きさなのかは想像できない。
そして、会社にたどり着いたとしても、そこから麻都の所まで行き着くのにも不安があった。
――オレもよくやるよなぁ……。
自分の行動に我ながらあきれてしまった。ちょっと前の自分なら、決してこんなことはしなかっただろう。随分と積極的になったと言うか、何と言うか。
ガコン――。
また大きく揺れると、電車が目的地へとたどり着く。オレは「ふっ……」と息を吐き気合を入れなおすと、ホームを出た。
そこには、あまり見慣れていない景色が広がっていた。なんとか地図を片手に歩いて行くが、これがなければ間違いなく路頭に迷っていた。下手くそな地図にほんの少し感謝する。
20分ほど歩くと大きなビルの前に到着した。見上げてみれば思ったとおり――。
「さ、え、き、自動車……ここか」
心臓が高鳴り始めるのを抑えながら、大きな自動ドアをくぐり抜けた。そこは高級ホテルのようでもあった。もっとも、会社勤めなどしたことのないオレには、会社の内部など知るよしもないが。
意を決してフロントのようなところへ向かう。