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Only you……
第6章 明 3
「あの……麻都――あいや、副社長さんに会いたいんですけど……」
「お約束はしていましたか?」
「え? あ、はい、まぁ……」
こんなことを質問されるとは思っていなかったので、オレは戸惑って曖昧な返事しか返すことが出来なかった。
いつまでももたもたしていると、遠くから叫び声のようなものが聞こえてきた。そしてそれはだんだんと近くなってくるような気がして、オレはそちらに目を向けた。
「明くんっ!!」
そこにはぜいぜいと肩で息をしているりんさんがいた。
「あ、こんにちは」
「はぁ……はぁ……こっちよ」
りんさんはオレの手首を掴むと、ぐいぐい引っ張りながらエレベーターへと押し込んだ。オレはあれよあれよという間に連れて行かれ、気がつけば広い部屋の高そうなソファの上にいた。
「あ、これ」
思い出したように封筒を差し出すと、りんさんは営業的な微笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。
りんさんはその封筒から冊子を取り出し、なにやら渋い顔をしていた。
オレはぐるりと辺りを見回す。背の高い本棚が多く、何を表しているのか分からないような横文字のならんだ資料などが、ぎっちりと収まっていた。窓際には木製の大きな机が置いてあり、端の方には積み上げられた紙の山、その隣にはノートパソコンが開いたまま置かれていた。
――麻都はあの席で働いてるのかな……。
ぼーっと眺めているうちに、オレはあることに気がついた。麻都がいない。ハッとしてりんさんの方を見たが、まだ渋い顔をしていた。
「あのぉ……りんさん? 麻都はどうしたんですか?」
りんさんは眉間にしわを寄せたまま、ゆっくりを顔を上げた。
「副社長は今会議中です。それと、無理して敬語なんて使わなくていいわよ」
「は、はぁ」
まるで機械のように言葉を並べるりんさんに、オレはただ返事を返すしかなかった。
再び沈黙が訪れる。
用事が終わったのでもう帰ろうと思い、オレが腰を上げようとした瞬間だった。
「最近どう?」
りんさんが顔も上げずに尋ねた。オレは質問の意味を考えるのに時間がかかり、その間はりんさんの叩くキーボードの音だけが響いていた。