この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Only you……
第6章 明 3
オレの隣にはりんさんが腰を落ち着けていた。りんさんはオレの肩を女性特有の細く柔らかな腕で抱き、オレはそこに身を預けていた。
しばらくの間、カチッカチッと掛け時計の音だけが響いていた。
「私がね、麻都さんに初めて会ったとき、彼は副社長でありながら大学生でもあった」
普通では考えられないであろう状況に、オレは驚いてりんさんを見た。今のセリフが冗談かと思ったからだ。しかし、残念ながらそんなものは少しも見られず、オレは呆然としていた。
「あり得ないわよね? 私もびっくりしすぎて、気を失ったのよ」
くくくっとその時を思い出しながら、りんさんは笑った。
「私より2つ年上で、見た目はあの通り格好いい方。でもね、今なんかと全然違ったのよ」
「……違ったって?」
いつも明るく優しい麻都が、一体どんな風に“違った”のか全く想像できなかった。
「みんなに優しいのは確かだったけど、無理して合わせていたみたいで。それに、凄く寂しそうだった」
ソファに座りなおし背筋を伸ばすと、遠くを見つめるような瞳でそう言った。
その横顔が凄く切なそうだった。
「まるで周りから弾き出されるのを怖がっているみたいだった」
オレは麻都の昔なんて知らない。何があったのかなんて知らない。大学に通っていたことすら知らなかった。
――オレは何にも知らない……。
「来るもの拒まず、去るもの追わずの典型だったわ。言い寄ってくるものは全て受け入れて、逃げてゆくものは少しも惜しまなかった」
「……」
オレはただ静かにしていることしかできなかった。
りんさんの視線は相変わらずどこか遠く――遠くの過去を見つめていた。
――もしかして……りんさんって?
オレにはある考えが浮かんだ。
「それがあるときからぴたりと誰も抱かなくなった」
りんさんがゆっくりと首を回し、オレの瞳を見つめる。
オレはその絡みつくような視線から逃げることが出来ず、じっと見つめ返していた。
そしてりんさんは、静かに、それでいて力強く言った。
「明くんに会ってからよ」