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Only you……
第6章 明 3

オレの隣にはりんさんが腰を落ち着けていた。りんさんはオレの肩を女性特有の細く柔らかな腕で抱き、オレはそこに身を預けていた。

しばらくの間、カチッカチッと掛け時計の音だけが響いていた。

「私がね、麻都さんに初めて会ったとき、彼は副社長でありながら大学生でもあった」

普通では考えられないであろう状況に、オレは驚いてりんさんを見た。今のセリフが冗談かと思ったからだ。しかし、残念ながらそんなものは少しも見られず、オレは呆然としていた。

「あり得ないわよね? 私もびっくりしすぎて、気を失ったのよ」

くくくっとその時を思い出しながら、りんさんは笑った。

「私より2つ年上で、見た目はあの通り格好いい方。でもね、今なんかと全然違ったのよ」

「……違ったって?」

いつも明るく優しい麻都が、一体どんな風に“違った”のか全く想像できなかった。

「みんなに優しいのは確かだったけど、無理して合わせていたみたいで。それに、凄く寂しそうだった」

ソファに座りなおし背筋を伸ばすと、遠くを見つめるような瞳でそう言った。

その横顔が凄く切なそうだった。

「まるで周りから弾き出されるのを怖がっているみたいだった」

オレは麻都の昔なんて知らない。何があったのかなんて知らない。大学に通っていたことすら知らなかった。

――オレは何にも知らない……。

「来るもの拒まず、去るもの追わずの典型だったわ。言い寄ってくるものは全て受け入れて、逃げてゆくものは少しも惜しまなかった」

「……」

オレはただ静かにしていることしかできなかった。

りんさんの視線は相変わらずどこか遠く――遠くの過去を見つめていた。

――もしかして……りんさんって?

オレにはある考えが浮かんだ。

「それがあるときからぴたりと誰も抱かなくなった」

りんさんがゆっくりと首を回し、オレの瞳を見つめる。

オレはその絡みつくような視線から逃げることが出来ず、じっと見つめ返していた。

そしてりんさんは、静かに、それでいて力強く言った。


「明くんに会ってからよ」
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