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Only you……
第6章 明 3
オレは相変わらず頭が鈍く、りんさんの言葉が示す意味を理解するのに数秒を要した。口を閉じることも忘れ、ぼーっとりんさんを見つめていた。そしてようやく口から飛び出した言葉は――。
「え?」
それだけだった。
「ねーえ? 明くんは、麻都さんのどこが好きなの?」
「えぇぇぇ!!!」
唐突にそう尋ねられ、オレの頭は混乱した。そんな恥ずかしいことさらっと言えるわけない。
――どこって……あれ?
どこと言われてぱっと思いつくことがなかった。不思議に思って頭をひねれば、徐々に色々な部分が上がってくる。
「優しいとこ……」
「じゃあ、意地悪されたら嫌いになるの?」
「あ、いや……」
そう言われてしまえば違うのかと考え直す。
「顔、かな?」
「そしたら、事故で原型留めないくらいに変わってしまったら?」
「……」
そんな問答を何度か繰り返しているうちに、オレは自分が本当に麻都のこと好きなのかすら分からなくなってきた。ここが好きだという部分を全て否定されて、自分の気持ちに自信がなくなってくる。
困った顔をしているオレを指さしながら、りんさんはケラケラ笑った。オレは「ちょっと、笑わないでよ!」と怒ってはみたが、効果は全くなかった。
「いいのよ、それで」
笑いが落ち着いてから、静かに呟いた。
また時計の音が響き始めた。
「“どこが”なんてものは必要ないの」
再び視線を遠くへ移したりんさんの横顔を見つめる。色は白く、化粧は殆どしていないようだった。唇に引かれた真っ赤なルージュが印象的だ。
「必要ない……他人の気持ちも、自分の気持ちも、私たちは上手く表せないのよ」
一度オレの方を見てにっこりと微笑むと、すっくと立ち上がり仕事用の机に着いた。そしてまたキーボードの音がカタカタと鳴り響く。