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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第1章 Like A Cat

「もしもし?」

俺はさっきよりも乱暴にもう一度問いかけてみた。するとブツリと通話が切れた。

「……どうしたの?」

ヤツが問いかける。俺は画面の消えた携帯をしばらくにらんで立ち尽くしていたようだ。

「……なんでもない」

嘘だ。いやな予感がする。

とにかく今は仕事に向かわなければならない。誰だかわからない相手に時間を取られているヒマはなかった。ヤツには普段から外出しないよう言ってあるし、本人も外へ出る気はなさそうだった。このマンションもセキュリティはしっかりしているし、すぐにどうこうということもないだろう。

俺は自分にそう言い聞かせ、職場へと向かった。



翌日も同じ時間に携帯が鳴る。恐る恐る手に取るとまたもや非通知。俺は出るかどうが少し悩んでから通話ボタンを押した。

「……アンタ誰だよ」

お決まりの挨拶もなしに単刀直入に問いかける。

無言。

相手の目的も、性別さえもわからない。ただわかるのは、ヤツに関わっているだろうことだけ。俺は絶対にヤツを手放したくはないし、辛い思いも二度とさせたくはない。何があっても守ってやる覚悟だ。

「おい、聞いて――」

 プーッ、プーッ――。

「くそ!」

俺は携帯をソファへ叩きつけた。バウンドして、派手な音を立てて床へ転がる。俺はそんなこと気にせずにセットしたばかりの髪をかきむしった。相手がなんのために電話してくるのかわからない。どういう風に出てくるつもりなのかわからない。そもそも誰なのかもわからない。

ヤツに聞けばいいのか。今まで、ここに来るまでに何があったのか。大体想像がついているだけにそれは聞けなかった。たぶんただ傷をえぐるだけで、何も得られない。

俺は手の打ちようのない恐怖に嘆息した。


そんな俺の様子をヤツがジッと見ていることなど露知らずに。



そしてまた携帯が鳴る。

無視してみてはどうか。あるいは非通知拒否設定にしてみるとか。
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