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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第1章 Like A Cat
そんなことをしても無駄だとわかっていた。むしろそうしてしまえば、なんらかのヒントを得られるチャンスをふいにしてしまうかもしれない。相手も何か意味があって無言電話をかけてきているはずだ。――そうであってほしい。

震える手で通話を押す。

「……」

もう無言電話相手に言う言葉も尽きてしまった。相手が応答するならかける言葉もあるだろうが、まるで独り言だ。俺も息を殺して電話の向こうの様子を探る。

相変わらず何も聞こえてこない。吐息の音さえも聞こえてこないのに、そこに怖いほどの気配は感じる。

 プツッ――。

今日も無言のまま通話が終わった。ほんの何秒かなのにも関わらず、俺の額には冷や汗が浮かぶ。携帯を持つ手も汗をかき、小さく震えていた。

ヤツは何も言わない。通話中に俺の方を見ることもない。我関せずというよりは、ヤツも何かを考えているように感じた。

俺は今まで呼吸を忘れていたかのような苦しさを感じ大きく深呼吸した。そしてソファの上で体育座りをするヤツを抱きしめる。ヤツも縋るように背中へ手を回してきた。



「ねえ……セックスしよーよ」

いつもの妖艶な笑みではなく、控えめに上目遣いでヤツは言った。『ダメなら諦めるから』そんな空気を感じる言い方だった。

正直、夜もあまり眠れず、セックスどころか食欲もあまりない。体力が落ちているなかで、ヤツを満足させてやる自信がなかった。ただ、ヤツのお願いや甘えは無碍にしたくない。

「来いよ」

ヤツはニコッと笑うとベットの上で上半身を起こした状態の俺に飛びついてきた。初めての反応に俺は戸惑う。俺が望んでいた、恋人のような行動。

「どうし――」

「あのな、最初のときみたいに……してほしい」

俺の言葉を遮って発言することも今まで一度もなかった。主人と奴隷の関係――ヤツの認識ではそうだったから、俺が絶対だった。それに、最初のときみたいにだと。

一番初め、抱いてほしいと言われたときはごく普通のセックスに及んだ。結果、ヤツは生殺し状態のまま長時間悶え苦しんでいた。強い刺激がないとイケないと気がついたのはそのときだった。

それを今、望むなんて。

「お前、苦しむぞ」
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