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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス
和幸は三年間、ずっと啓斗に熱視線を送っていた一人だった。男同士なのだから連絡先なんて軽く聞けばいい。わかってる。そんなことは、この気持ちが恋だとハッキリ認識する前からわかっている。
でも、できなかった。それを毎回啓斗の取り巻きの女子のせいにしてきた。本当は自分に意気地がないだけだということも、わかってはいながら……。
「おお、委員長どこ行ってたんだよー。お前の分だけまだ寄せ書きないんだからな」
「悪い、悪い。今書くよ」
ついさっきまで和幸と話していた悪友が、サラッと啓斗のところへアルバムを持って行った。啓斗も学ランの胸ポケットからペンを出すと相手の顔を見ながら少し内容を考え、さらさらとメッセージを残した。
――いいな……。
そんな様子を遠巻きに眺めることしか、和幸にはできなかった。いつもクラスでいじられているキャラの自分が行って、赤面しながらどもる姿を想像するとあんなにあっさり啓斗の元へは向かえなかった。
「山村あ、写真一緒に撮ってよ」
「ん、ああ、いいけど」
最高に変顔をキメてみる。相手の女子はぶりっ子ポーズだっただけにブーイングが来た。
「それ見て俺を思い出してくれよな」
「夢にまで出そうな変顔だわ」
女子の頭を小突くと、「なにすんのよー」と肩を乱暴に叩かれた。いつもの光景。
そこにはいつもの視線。
啓斗は様子を見ていた。チキンな和幸がいつ自分の元へ来るのかと。それを済ませるまでは啓斗も帰ることができない。啓斗と和幸は別々の大学へ進学する。互いの偏差値を考えれば当然だ。いつも片手で数えた方が早い啓斗と、たびたび赤点を取っては悶絶している和幸だ。
最終最後、本当に和幸が近づいて来ないのならこの人ごみの中を掻き分けて啓斗から近づくことも、もちろんできる。ただ、それをしないのは単に和幸に来させたいから、というだけだった。
三年もあったのだから、いくらでもチャンスはあったのにいつも啓斗を見るだけで行動には移さない和幸。わざと視線をぶつければ、耳まで染めながら慌てて俯く姿は可愛らしくてしかたがなかった。
でも、それも今日で最後。みんなそれをわかっている。