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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス
さっき一度も話したことのない他クラスの女子に告白された。もちろん丁重にお断りをしたが、彼女の涙に濡れた表情は妙にスッキリしていた。そして「聞いてくれてありがとう」と言って去っていった。いい女にはいい男なんてすぐ見つかるよ、と啓斗は思った。
「なあ、いつまでも教室にいてもなんだしさ、カラオケ行こうぜ」
「いいねー、それ! 乗った!」
「え、カラオケ、あたしも混ぜてよー」
和幸の周りがにわかに盛り上がりだした。
「カズ、お前もどうせヒマなんだろー、もち来るよな」
疑問じゃなくて確定。そうだよ、そういうポジションで今まで過ごしてきたよ、でも最後なんだよ。いつもならギャグの一発でもかまして即答するのが和幸なのに、今日はできなかった。
「わり、ちょっと寄りたいとこあるから後で合流してもいい? どうせいつもの駅前んとこだろ?」
「ん、ああ、いいけど……珍しいな、カズが後から来るなんて」
「ま、な。今日で最後だから」
啓斗が帰り支度をし出したのが目に留まり、急速に焦りが顔を出す。どうしよう、行かなきゃ、でもどうしよう。答えは決まっているはずなのに、心の中では問答が繰り返される。それは三年間進まないまま。
「んじゃ、おっさきー」
「遊ぶときは誘ってね」
「俺、地方大だけど帰ったら連絡するからな」
仲のよかったメンツが次々と教室から出て行く。本来なら先陣きって行くのが和幸のはずなのに、体は固まったまま動かない。視線だけは周りに帰りの挨拶をする啓斗の背中を追っていた。
「あああああ、クソッ。俺まじ死ね」
啓斗の背中が教室の扉から消えた瞬間、呪いが解けたように和幸の体が動き出した。鞄と卒業証書とアルバムを引っつかみ、後を追って廊下へ駆け出したがそこにはすでに啓斗の姿はなかった。急いで玄関へ向かう。
最後という事実が、和幸の背中を強く押していた。
玄関の靴箱には、啓斗の外靴が入っていた。
――まだ、どっかにいる……!
きっとこれが本当に本当の最後のチャンス。神様が、普段素行のよろしくない和幸にお情けで与えてくれたチャンスに違いなかった。